【アメリカ考】ローマ教皇より宗教保守な個人主義プロテスタント国家

2018-10-15宗教, 政治・社会, 文明文化の話

日本で意外に知られていないのがアメリカという国の宗教的特殊性だ。日本がかつて戦ったのはとんでもなく “信心深い” ヤング国家だったのである。

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世界の宗教事情:世俗性と宗教保守性

「religious american」の画像検索結果日本では「アメリカ=リベラルで開明的な国」、「アメリカ=世界最先端の思想をリードする国」といったイメージが、現場感覚の稀薄な政治家やメディアによって量産されてきた。

そのせいなのか、いまだに20世紀末的なグローバリズム順応主義(※実質的にはアメリカ追従主義、新自由主義的なオワコン思想への執着)に終始し、他の世界の動きとズレている。

多くの良識ある国民はその辺りに大きな違和感を感じ、苛立っているのではないかと思う。

現代は、あのカトリックの総本山であるヴァチカンでさえ進化論を認めるくらい世俗化(=合理主義的世界観)の進んだ世界だ。アメリカの話をする前に、まずその点を見てみよう。

世界各国の宗教事情

以下のグラフは「生活(人生)において宗教は非常に重要だと思う人の割合」を国別に示している。

「us and europe attitude toward religion」の画像検索結果

(出典:PEW Research Center)

 

高%を「宗教保守」、低%を「世俗的」と呼ぶなら、以下のような傾向が見られる。

  • 東アジアの日中韓は際立って「世俗的」である。
  • 白人国家ではフランス、オーストラリア、ロシア、イギリス、スペイン、ドイツ、ウクライナ、イタリア、カナダの順で「世俗的」である。欧州の主要国はほぼ「世俗的」といっていい。カソリックのお膝元イタリアは欧州内では「宗教保守」度が高いが、それでもわずか26%。十分宗教離れが進んでいる。
  • 逆にアメリカは53%と際立って「宗教保守」度が高い。非白人系の移民の影響を考えても、この数字は世界の中央値にほぼ等しい。
  • ユダヤ教発祥のイスラエルは34%でかなり「世俗的」。
  • イスラム教世界ではトルコの56%が最も「世俗的」。
  • ヒンドゥー教・仏教を生んだインドは80%でアジアの中では「宗教保守」度が高い。

アメリカ人の宗教感覚

アメリカの例は、合理主義や個人主義の発達が必ずしも非宗教化を意味しないことがわかる。その点に関する少し古めの記事を抜粋で紹介する。ワシントン・ポストの2014年の記事だ。

フランシス教皇の開明的発言

Pope Francis amassed international popularity through stunning and progressive statements that put him at odds with the conservative wing of the Catholic Church. On Tuesday, he similarly put himself at odds with a significant portion of Americans by saying he believed in evolution, not creationism — an idea 42 percent of Americans espouse.

フランシス教皇は、カトリック教会内の保守派と相容れない、驚くほど進歩主義的な言動で世界的に人気を高めている。この火曜日、今度は進化論を信ぜず創造説を信ずる42%のアメリカ人と相容れない、次のような声明を述べた。

「creationism evolutionism」の画像検索結果

creationism
文脈によって、創造説、天地創造説、特殊創造説と訳し分ける必要があるかもしれない。ここでは最も一般的な(広義の)創造説を採用した。特殊創造説(theory of special creation)は『創世記』の記述を文字通りに解釈する原理主義的な信仰で、いまから6000~1万年前に人類が創造されたとする(この後の記事中に出てくる「1万年」というのはこの特殊創造説を指している)。
人類の起源
人類の起源に関する見解は創造説と進化論の2つだけではない。他の様々な見解については以下の記事がよくまとまっている。

“When we read about creation in Genesis, we run the risk of imagining God was a magician, with a magic wand able to do everything. But that is not so,” Francis said. “He created human beings and let them develop according to the internal laws that he gave to each one so they would reach their fulfillment.”

He added: “Evolution in nature is not inconsistent with the notion of creation, because evolution requires the creation of beings that evolve.”

「創世記の創造を解釈する際、私たちは、神が意のままに魔法の杖を使う魔法使いであるかのようにイメージするリスクを冒しています。でも違います。神は人間を創造しましたが、各自が内的法則に従って発達し、完全性に至れるように創造したのです」(フランシス教皇)。

教皇が付言するには「自然界の進化は創造の概念と矛盾しません。進化に先立って、進化の主体となる存在の創造が必要だからです」とのことである。

アメリカ人の進化論アレルギー

Compare that statement with one in this June Gallup poll: It found 42 percent of Americans believe God created humans “in their present form 10,000 years ago,” disputing scientific consensus that humanity slowly evolved from primates over millions of years.

この発言を、6月にギャラップが公表した統計と比較してみよう。調査によれば42%のアメリカ人は「いまと同じ姿かたちで1万年前に」神が人類を創造したと信じている。これは「数百万年に及ぶ霊長類の進化の中で徐々に人類になった」とする科学界のコンセンサスとは矛盾する見解だ。

「pope francis」の画像検索結果

ヴァチカンの進化論受容

一方、ギャラップによれば、

…the percentage of Americans who adhere to a strict secularist viewpoint — that humans evolved over time, with God having no part in this process — has doubled since 1999.” Meanwhile, the percentage of Americans who believe humans evolved over time, but with God’s help, fell from 38 percent in 1982 to 31 percent today.

「人類は神とは無関係に時間をかけて進化を遂げたとする、純粋に世俗的な見解を支持するアメリカ人は1999年の調査から倍増している」。また「人類は神の助けを借りながら時間をかけて進化を遂げた」という見解を支持するアメリカ人は1982年の38%から最新調査では31%に減った。

カトリック教会はすでに1950年代後半から進化論を肯定してきており、フランシス教皇の見解は必ずしも “異端” ではない。

But Catholic clergy, like Francis on Tuesday, emphasized God had a major role in humanity’s progression. “Evolution in the sense of common ancestry might be true, but evolution in the neo-Darwinian sense — an unguided, unplanned process of random variation and natural selection — is not,” wrote Christoph Schönborn in a widely-read 2005 opinion article in the New York Times. “Any system of thought that denies or seeks to explain away the overwhelming evidence for design in biology is ideology, not science.”

フランシス教皇をはじめとして、カトリック聖職者は人類の進歩における神の大いなる役割を強調する。多くの人に読まれた2005年のニューヨーク・タイムス意見記事の中で、クリストフ・シェーンボルン枢機卿(オーストリア出身)は「先祖の共通性という意味での進化は真実かもしれない。しかし進化を、導きも計画もまったくない、ランダムな変異と自然選択の結果と見なすネオダーウィニズムは真実ではない」という。「生命体の設計性に関しては膨大な証拠がある。それを否定ないしは無視した思考体系はイデオロギーであって科学ではない」。

「Christoph Schönborn」の画像検索結果

進化論vs創造説

The American people’s commitment to creationism, Gallup said, represents the “ongoing discontinuity” between general scientific consensus and the public’s beliefs.

アメリカ人の創造説支持は、ギャラップによれば、科学上のコンセンサス全般と国民の信仰の間で「進行する断絶」を表わす。

“Overall, the nation has a big problem,” Brian Alters, the president of the National Center for Science Education, said in 2006. “Approximately half of the U.S. population thinks evolution does (or did) not occur. While 99.9 percent of scientists accept evolution, 40 to 50 percent of college students do not accept evolution and believe it to be ‘just’ a theory.”

2006年、「一般論としてこの国は大きな問題がある」と全米科学教育センター所長のブライアン・アルターズは言っている。「アメリカ人口の約半分は進化は起きなかったか、進化は続いていないと考えている。科学者の99.9%は進化を認めているが、大学生の40~50%は進化を認めず『単なる理論』と考えている」。

<記事引用終わり>

欧米間の宗教態度の違い

いかがだろうか?フランシス教皇の方が、4割のアメリカ人より「進歩的」「世俗的」なことがわかっただろう。

では、アメリカ人の先祖に当たるヨーロッパ人はどうなのか?下の図は欧米の宗教態度の比較である。

「us and europe attitude toward religion」の画像検索結果

(出典:PEW Research Center)

中段がキリスト教徒のデータ、右段が特定の宗教を信じない人のデータで、両者の総合が左段だ。以下に左段のデータをまとめてみる。

設問は4つ。

Q1. 宗教は生活において非常に重要・・・西欧諸国11%、アメリカ53%
Q2. 月に最低一度は礼拝など宗教サービスに参加する・・・西欧22%、米50%
Q3. 毎日お祈りをする・・・西欧11%、米55%
Q4. 100%神を信じている・・・西欧15%、米63%

神の存在を確信する人口が63%というのは現代のいわゆる先進国において驚異的に高い数字だ。アメリカの「宗教保守」性が頭抜けて高いことがわかる。

アメリカの宗教事情

ではアメリアの宗教事情はどうなっているのか?

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上の図から、約7割(プロテスタント44%+カトリック24%)がキリスト教徒であり、これも先進諸国の中で際立って多い数字だ。

そのためアメリカは何事につけても宗教団体の意向を無視して動かない。たとえば、トランプ大統領はカルヴァン系の長老派(スコットランド発祥)だが、圧倒的信者数を誇る福音派を無視することはできない。

出典: https://president.jp/articles/-/8879

アメリカの個人主義的傾向

Individual liberty vs. state guaranteesこのような宗教意識にもかかわらず、個人の人生(ライフスタイル)は必ずしも「宗教保守」とはいえない。アメリカという国は、国の成り立ちが自生的でないため、伝統的に、信じられるものは自分だけ(あるいは直系家族だけ)だった。そのため、政府への信頼(あるいは依存)心が薄い。これはヨーロッパと比べても顕著な傾向だ。⇒の図を見てほしい。

オレンジが「困窮者を出さない国家が必要と思う人の割合」、緑が「国家の介入なく自由に自己実現すべきだと思う人の割合」である。前者は社会主義的傾向、後者は自由主義的傾向の強さをあらわす。

アメリカの自由主義重視の傾向が際立っている。あの革命のフランスでさえ、アメリカと比べれば社会主義的傾向が高いのだ。

アメリカ精神の不思議

近代的合理精神(個人主義)と宗教心の奇妙な同居。これはそれ自身研究対象となるような興味深い事象だ。人工国家の住人が “精神的空白” を埋めるにはやはり宗教伝統に頼らざるを得ないのだろうが、それが一神教だという点が問題を複雑にしてきた。

なぜなら一神教特有の使命感(攻撃性)が受け継がれているからだ。基本、アメリカ人には、自分たちは旧世界に代って新しい世界を開発(完成)するのだという使命感がある。その代表的なあらわれをいくつか挙げよう。

  • アメリカ人が「独立」記念日にこだわるのは使命感を奮い立たせるためだ(建国の原点の確認でもある)。この「独立」は必ずしも旧宗主国イギリスのみを意味しない。ギリシャ・ローマ以来の西洋旧文明全体を包摂している。
  • アメリカ人の世界警察的な拡張主義は、孤立主義のネガである。拡張主義に立つとき、彼らは普遍的な価値観(と彼が信じるもの)を前面に押し立てるが、その背景には宗教心がある。『ヨハネの黙示録』の記述を現実化しようという大それた意図さえ見え隠れする。
  • アメリカ人の開拓精神の根底にも宗教心がある。かつてのヨーロッパ人宣教師がそうだったように、未開の人間をイエスに帰依させ、文明化するという使命感だ。その使命感は東海岸から西海岸へ進み、とうとう海を飛び越えて日本や中国に展開した。”manifest destiny” がキーワードだ(”我々アメリカ人に負託された明々白々たる使命”)。
  • アメリカ人は “great” ということばが大好きだ。彼らのいう大きさや偉大さは歴史の浅さを克服し、自分たちこそ最後に神の負託を受けた国民なのだという優越感の確認である(対ヨーロッパ・コンプレックスの裏返し)。

2分でわかるキリスト教の基本

「そもそもキリスト教ってどういう宗教?」と思った人は、以下の動画(英語)を観るといい。短い時間で基本がわかると思う。

 

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