【英語の肝】英語ネイティブのこころを表わす句動詞:征服者への反抗が生んだイングランド庶民の表現

2019-06-26♪音楽, 英語の話, 英語史

当サイトでは、英語学習の教材として主にポップミュージックの歌詞を用いている。それには理由がある。

ポップミュージックはゲルマン系の語彙を大活躍させて、こころを歌うことが多いからだ。こころの部分がわかるようになると、確実に英語を学ぶのが楽しくなる。今回は、このこころを伝える英語について学ぼうと思う。

※2019.6.25 補筆:記事先頭にノルマン・コンクエスト関連の記述を追加。

ノルマン・コンクエストという大事件

句動詞(phrasal verb)は動詞+前置詞(または副詞)で様々な意味を言い表す口語的表現(colloquial/vernacular expression)だ。句動詞は英語の一大特徴とも言える要素だが、なぜ続々と句動詞が生みだされたのか?

異民族に征服されたからである。1066年、フランスから押し寄せたノルマン人がイングランドを征服、彼らの母語ノルマン・フランス語がイングランドの公用語となった。ノルマン人の支配階級(貴族)はフランス語、被支配のイングランド庶民は英語を用いるという二重言語状態が300年間ほど続き。英語とフランス語との言語衝突が起こった。

「norman conquest」の画像検索結果

その結果、古英語(Old English)では主に動詞の前に位置していた副詞が、フランス語の影響を受けて動詞の後に置かれるようになった。フランスには複音節の動詞が多く、アングロサクソン系の住民には理解しづらく使い勝手が悪かったからだ。そこで庶民にも理解しやすいよう、次第にフランス(ラテン)系の動詞を英語本来(ゲルマン系)の基本動詞と副詞のペアで、やさしくわかりやすく言い換えたのである。

フランス語ラッシュで句動詞が量産された

たとえば、emitというラテン語由来の動詞に対して、send out、give off などの句動詞が生まれたのだが、そのようになった理由はemitの語源からわかる。

emit (v.)
1620s, from Latin emittere “send forth,” from assimilated form of ex “out” (see ex-) + mittere “to send” (see mission). Related: Emitted; emitting.

emitはex(out)+mittere(send)の意味で、文字通りに置き換えればsend outとなり、この発展形でradiateの意味もあるので、give offに言い換えたのである。

※ちなみにmittereからmissionという名詞が生まれた。missionは「外に」「送り出された」者(あるいは目的)を意味する。

書き言葉と話し言葉(learned-literary vs folk vocabulary)

英語には、このようなラテン系複音節動詞(learned-literary、知識階級のことば)とそれに対応する句動詞(folk vocabulary、庶民のことば)のペアが多数存在する。ノルマン・コンクエストで王室や政府、裁判所のフォーマルな場はフランス語に席巻され、書き言葉と言えばフランス語(あるいは直接借用されたラテン語)というのが通り相場となった。これは漢語で公式文書を記す日本語の習慣と似ている。法律文章で歌の歌詞は書けない。心情を託せないからだ。英語でも同様の事態が起きたのだ。

みなさんは、continue⇒続ける(続く)、exit⇒脱出すると覚えたのちに「continueはgo onと言い換えられます。exitはgo outとも言えます」というような授業を受けたのではないか?習う順番が逆なのである。むしろ「goというgo動詞にはたくさんの慣用表現があります、それは征服者のことばを母語に置き換えた結果できました」と教えた方が頭に入りやすいだろう。

知識階級vs庶民

いくつか代表的なペアをリストアップしよう。

フランス語動詞句動詞
abandongive up
acceleratespeed/hurry/rev up
advance move on, move up, go on, keep on
arrivecome in, get in, get back
continuego on, keep on, keep up, stay on
deferput off, give in (to)
depart
take off, be off, get away, go away
depositput down, set down, get down
descendgo down, come down, get down
enter
come in, go in, walk in, get in
excavatedig up, dig out
exitgo out, come out, walk out, get out
explode
blow up, set off
imagine
think out, figure out
inflateblow up, puff up
inventmake up, find out
mountgo up, come up, get up
penetratego in, get in, go through
preparemake up, set up, fix up, get up
proceedgo on, keep on, carry on, get on (with)
removetake away/off/out
returngo/come/get/be back
revertgo back, turn back
surrendergive up, give in
traversecross over, go over, go across

句動詞は基本動詞の根幹の意味をつかむ練習になる

そうするとおぼろげながらに、英語の基本動詞中の基本動詞であるgoの「根幹の意味」が了解されてくる。それは動くこと。時間的にでも空間的にもいいが、とにかく動く(変わる)ことを意味する。状態を保ったまま移動するからgo on、外へ動くからgo outなのである。”I gotta go.” という慣用表現。ここではleaveの意味だが、つまりは移動ではないか?また、”I’m going to do something.”、これは未来の時間へ向けて動いていることを強調する表現だ。willやshallとイコールではない。意思や運命の感覚ではなく、仕掛りの状態をニュートラルに表現しているのだ。

日本の英語教育がまずいのは、書き言葉のフランス(ラテン)系語彙をまず教え(丸暗記させ)、英語の(普通のイングランド庶民の)こころを表す句動詞を後回しにするところだ。英語の肝を素通りして、外来語を教えるような倒錯なのである。

ゲルマン系語彙は着流し、ラテン語系語彙はスーツ

ゲルマン系語彙は日本のやまとことばに相当する。ネイティブは母語(mother tongue)を使わないと、すっと心情を表現できない。英語ネイティブにとってラテン系語彙は侵略者・支配階級のことばであって、プラス面も多大でいろいろお世話になってきたのは事実。とはいっても、基本的にはどこか気取った、よそよそしいことばなのである。

アングロサクソン魂を表す句動詞

心情表現がむずかしい理由は、第一に、日本人にとって英語は外国語であり、そもそも心情を託しにくいせいだ。第二に、ニュアンスがつかめないからだ。そして第三に、学校で本格的に教わらないためでもある。要するに馴染む機会が少ないのだ。

心情表現を託すときポピュラーミュージックの歌詞では句動詞が多用される。例をひとつ挙げよう。ビートルズに “Don’t let me down” という曲がある。

曲のタイトルに使われている let someone down が句動詞だ。Cambridge Dictionaryで引くと、次のように説明されている。

to disappoint someone by failing to do what you agreed to do or were expected to do

「がっかりさせる」という意味だ。

これはその気になれば、”Don’t disappoint me.” と言い換えられる。でも、ジョン・レノンはその気にならなかったのである。

この句動詞はゲルマン語系の let と down で構成されるアングロサクソン魂のこもった表現。disappoint me はラテン語系のちょっと気取った(高尚な?)表現なので、相手との距離感が変わる。切々とした感じは前者にしか出せない(後者だと客観的な感じが滲み出てしまう)。

ラテン系語彙の特性

ラテン系の語彙は、ゲルマン語系の語彙に比べ、接頭辞や接尾辞が語根と結びついて造語される傾向が強い。そのため音節が増える傾向にある。

この disappoint もそうで、let のように単音節ではなく、接頭辞 dis と語根の point で構成される二音節の単語になっている。dis というのは「物理的、心理的に離れる」という語義。point は「動かずそこに留まっている(あるいは極まっている)」という語義をもつから、disappoint は「留まっているべきところから離れる」という意味を担う。留まっているべきとことが「期待」であるとすれば、期待に添わないおとで「がっかりさせる、失望させる、落胆させる」という意味に転じるわけだ。

これに対して、”don’t let me down” は直接的だ。私がダウンするのを許すな→ダウンさせるな→がっかりさせるな、となる。どちらが心情を託しやすいかは自明だろう。

“Don’t Give Up” Peter Gabriel

せっかくの機会なので句動詞に注目して全曲の歌詞を見てみよう。

In this proud land we grew up strong
we were wanted all along.

I was taught to fight, taught to win.
I never thought I could fail.

幼い頃から期待され、競争社会でライバルと戦い、勝つことを至上命題に育った男の話だ。その彼が、まさか失敗するとは夢にも思わなかったと嘆いている。

  • grow up: mature
    例文:Your brother needs to grow up and start thinking about his future.(お前の弟も大人になって自分の将来を考えなくちゃいけないね)
  • wanted all alongは、ラテン語系語彙をひとつも含まない英語らしい表現。このwantedは親や世間に「期待されている」状態。all alongは「最初からずっと」。この場合「生まれたときから」の意味。
    例文:I knew all along it was you looking down on me.(貴様が俺をバカにしてるのは最初からずっとわかってたよ)

No fight left or so it seems.
I am a man whose dreams have all deserted.
I’ve changed my face, I’ve changed my name,
but no one wants you when you lose.

途中から男の独白になるので主語の “I” は省略されている。

  • No fight leftは一番の歌詞に出てきたfightを受け、主に仕事を指していると思われる。もうできる仕事はないように思えた。すべての夢は破れた心境なのである。
  • desertはラテン語由来の語彙で、原義は “thing abandoned”。砂漠の意味がメジャー化したのは中世以降。動詞形の原義は “undo or sever connection”。いずれも関係が断ち切られることを意味する。英語で夢は破れるのではなく、向こうから離れていってしまうのだ。

Don’t give up
‘cos you have friends
Don’t give up
you’re not beaten yet
Don’t give up
I know you can make it good

どこからともなく慰めのことばが降ってくる。

  • give up: surrender; resign; stop (implies you couldn’t make it no matter hard you tried)
    例文:You gave up drinking.(禁酒した)
    例文:No grammar books and teachers have been of his help. He is giving up studying English.(いろんな文法書やスクールを試したが役に立たなかったので、彼は英語の勉強をやめようと思っている)

    • give up on someone/something: give upにonが付くと単にあきらめる以上に「見限る」「愛想をつかす」「さじを投げる」といったニュアンスが強く出る。
      例文1:Giving up on that high-tech company, he sold all his shares in it.(そのハイテク企業に見切りをつけたので持ち株ぜんぶを手放した)
      例文2: We’ve tried hard to reach him, but he never called or emailed us back. We had to give up on him.(何とか彼と連絡をつけようとしましたが、電話もeメールも返してくれません。彼のことはあきらめるしかありませんでした)
  • make it goodも英語らしい表現。itはdummy objectiveと呼ばれる構文上の目的語で、漠然とした状況を示す。天の声(?)は「あなたならうまくやれるのはわかってる」と励ましている。
    • make itはイディオムとしても様々な意味に使われる。主な意味に次のようなものがある。
      • to succeed in a particular activity
        例文:She made it in films when she was just 16.(彼女はたった16歳で映画に出て成功した)
      • to manage to arrive on time
        例文:We just made it in time for the Beethoven Zyklus.(ベートヴェンチクルスの開演にぎりぎり間に合った)
      • to be able to be present at a particular event
        例文:That’s too bad I can’t make it on Saturday.(頭くるけど土曜は行けないわ)
      • to not die as a result of an illness or accident; recover
        例文:Unfortunately that patient didn’t make it.(残念ながらあの患者さんは亡くなりました)

Though I saw it all around
never thought I could be affected.
Thought that we’d be the last to go.
It is so strange the way things turn.

まわりのクビ切りはずっと見てきたが、自分は最後まで大丈夫(”the last to go”)と高をくくっていた。まさかaffectされる(=クビを斬られる)とは思わなかった。ひとこともクビになったとは書いていないが、明らかにレイオフを言い渡されたのだとわかる。

  • the way things turnも英語らしい表現。物事がこんな風になるなんて不思議だと世の無常について嘆いている。itは後に置かれた主語を導く構文上の主語(dummy pronoun、もしくはdummy subject)で、この文の本当の主語はthe way things turn。本当は “The way things turn is so strange.”
    • dummy pronounは次の例のように目的語にも使える(dummy object)。
      例文:She doesn’t like it when you are so quiet.(彼女はお前が黙っているのがイヤなんだ)

Drove the night toward my home
the place that I was born, on the lakeside.
As daylight broke, I saw the earth
the trees had burned down to the ground.

湖畔の生家に戻るのは何年振りなのだろう?夜が明けると大地の木々が燃え尽きて倒れるのが見えたと、倒木が自分の状況の比喩に使われている。故郷でさえ彼をあたたかく迎えてくれないのである。

Don’t give up
You still have us.
Don’t give up
We don’t need much of anything.
Don’t give up
‘cause somewhere there’s a place
where we belong.

天の声は多くを期待されてきた主人公の心情を察して、”We don’t need much of anything.”(生きていくのに多くは必要ない)という。

  • このmuch of anythingも英語らしい表現で、たいてい否定文で使われる。much of は部分否定においてanythingを強調する役割で使われている。
    例文1:”Did he say much about his holiday?” “No, he didn’t say much of anything. “(「休みについて何か言ってた?」「ううん、休みのことも他のこともほとんど何も言ってなかった」)休みについて多くを語らないうえに、他のことも言っていなかったという意味が込められている。
    例文2:You cannot eat or drink too much of anything. You ruin your health.(からだによくないから、食べ過ぎも飲み過ぎもやめなさい)

Rest your head.
You worry too much.
It’s going to be alright.
When times get rough
you can fall back on us.
Don’t give up
please don’t give up

  • fall back on someone: rely on someone
    背中から誰かに倒れかかる→全面的に身を委ねるという連想である。

‘Got to walk out of here.
I can’t take anymore.
Going to stand on that bridge
keep my eyes down below.
Whatever may come
and whatever may go,
that river’s flowing,
that river’s flowing.

主人公は「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。淀みに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし」と書いた鴨長明のように自省するしかない。もうこんな人生は耐えられない(ここの “take” は「引き受ける」、「我慢する」の意)。

  • walk out of: leave, usually as an expression of disapproval
    比喩的な意味に使われることが多い。「不本意な状況から抜け出す」というニュアンス。
    下の曲ではタイトルに使われている。”Before you walk out of life”、「私の元から去る前に」である。

Moved on to another town.
Tried hard to settle down.
For every job, so many men,
so many men no-one needs.

仕方なく新たな仕事を見つけ、新たな街に移り住むがなかなか落ち着かない。

  • move on (to something/somewhere)
    この句動詞も多用される。次のような意味がある。

    • to leave one place and travel to another
      例文: I heard they are going to stay here for only a few days before moving on.(ここに数日だけ泊まってどこかへ行くんだってさ)
    • to change subject/topic
      例文: OK, enough. Let’s move on to another agenda.(これで十分でしょう。別の議題に移りましょう)
    • to change ideas, attitudes, behaviour etc.
      例文: One remarkable part of any discussion about the same-sex marriage issue is how fast public opinion has moved on.(同性愛婚議論の際立った特徴はそれに関する世論の変化の速さである)
    • to start to continue with your life after you have dealt successfully with a bad experience
      例文: Though it might have been a nightmare, let’s just forget about it and move on.(悪夢だったかもしれないけど、もう忘れてやり直そうよ)
  • settle down
    これもよく見る句動詞。

    • to begin to live a quieter life by getting married or staying permanently in a place
      例文: A man of your age had better get married and settle down.(お前くらいの年になったら男も結婚して落ち着いた方が身のためだ)
    • to make yourself comfortable in a place, especially in order to do something that will take a lot of time or effort
      例文: The dog sat there still and settled down to wait for his master.(その犬はじっとそこに坐り、主人の帰りを待ち続けていた)

Don’t give up
‘cause you have friends.
Don’t give up
you’re not the only one.
Don’t give up
no reason to be ashamed.
Don’t give up
you still have us.
Don’t give up now
we’re proud of who you are.
Don’t give up
you know it’s never been easy
Don’t give up
‘cause I believe there’s a place
there’s a place where we belong.

辛い状況にある主人公に対して天の声は励ます。

「友だちがいるじゃない」「あなただけじゃないわ」「恥じる必要なんてない」「わたしたしたちがいるじゃない」「あなたを誇りに思うわ」「大変だったけど、どこかに本当に落ち着ける場所が見つかるはず」

“The Show Must Go On” Queen

その後の主人公がどうなったかはわからない。

こんなとき英語では、”The show must go on.” という。人間は一人ひとり、命尽きるまでショウを演じ続けなければならないというのである。

クイーンの曲のタイトルにもなっている。


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とても役立った役立ったので続きが読みたいどちらとも言えないあまり役立たなかったぜんぜん役立たなかった


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