【ナイジェリア】オガム文字ペテログリフのイボ語訳が伝える哲学

本記事は「人類最初の文明は西アフリカのナイジェリアにあった?」からの派生記事となる。

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オガム文字は何語のためのアルファベットか?

オガム文字はアイルランド島、マン島、ウェールズなど、主にケルト人の居住する地域で数百件見つかっている石碑に刻まれたアルファベット(ペテログリフ)のこと。西洋系の学者はケルト系の古語を書記するための文字システムと見なしているが、その前提だと碑文を翻訳できなくて困っていた。

オガム文字のアルファベットシステム(出典:https://www.omniglot.com/writing/ogham.htm)

ところが、遠く離れたアメリカのヴァージニア州でもオガム文字のペテログリフが見つかり、古ケルト語説の信ぴょう性が疑われることになったという(Horse Creek Petroglyphs)。

アメリカ、ウェストヴァージニア州にあるTHE HORSE CREEK PETROGLYPHS。AD7世紀の製作とされる(出典:http://affectioknit.blogspot.com/2012/07/exploring-wvthe-horse-creek-petroglyphs.html)。

イボならすべての碑文を解読できるという

そこへ現れたのが、ナイジェリア人学者キャサリン・オイアヌジュ・アチョロヌ(Catherine Oianuju Acholonu)である。オガム文字はイボ語を書き表す文字システムで、イボ語ならちゃんと意味の通じ、しかも哲学を含んだ碑文だということがわかる、というのである。しかもシュメールの碑文やエジプトの碑文にも適用可能だ、と。本当だとしたら大変な発見なのだが、現時点で誰も騒がない。

騒がないからトンデモだと決めつけるのは危険だ。せっかくなのでHorse Creek Petroglyphsの訳文を比べてみようと思う。上の写真のペトログリフの文字部は次のようなものだ。

アチョロヌさんを含め、三人の翻訳を比較してみよう。上の2と書いてる文字列はどんな意味か?

バスク語説をとるEdo Nylandさんの訳文

Having prevented escape by running away, we made the usual preparations by the edge of the stream and happily rejoiced in dividing the welcome riches into three parts by plentiful butchering. At first unaccustomed (to the task) we undeniably had to pay attention. We were as busy as possible and so happily exhausted that (we didn’t notice) the noise of the thunder coming in our direction.

原アイルランド語説をとるBarry Fellさんの訳文

A virgin was with child; God ordained her to conceive and be fruitful. Ah, Behold, a miracle!

イボ語説をとるアチョロヌさんの訳文

Literal Meaning: “Seller of three pence worth of goods, how much will your goods fetch? Can money swallow Imo River (metaphor for the sea)? Can it kill a boa? Can it shop for groceries (do one’s chores)? An old man does not soil his body like a new born.”

Lesson: The power of money is limited to commerce. Money cannot render direct service or affect the realm of the infinite. Without human instrumentality, money is useless in the performance of actions great or small. Age confers wisdom through experience. Those better placed than others should live by example, rather than following the ignorant to do wrong.

三者三様、まったく違う!人間の言語とは不思議なものだ。ここではアチョロヌさんの翻訳を日本語にしてみよう。

直訳:3センスの値打ちのものを売る人よ、いくらで売るつもりだ?カネはイモ川を飲み込めるか?ボーアを殺せるか?日用品を買ってこれるか?老人は生まれたての赤子ではない。体をいたわるものだ。

教訓:カネの力は商売だけに使え。カネは直接の仕事はしない。無限の領域には関係しない。人が道具にしなければ、行為の大小を問わずカネは無力だ。年を重ねれば経験で知恵が授かる。人の上に立つものは無知なる者の不正に従わず、人の範として生きるべし。


上の2つの訳文は失礼ながらアチョロヌさんの訳文を出されると影が薄いのではないか?このくらい高度の内容であれば、”わざわざ” 碑文に残す意味もわかる。

ナイジェリアという国

イボ語を話すイボ族の集住地域は下図の濃い緑の部分だ。

Igbo Community in Nigeria and Africa.svg

ナイジェリア、イボ族の居住地域(出典:wikipedia)

宗教対立

ナイジェリアは1999年に憲法を制定し共和制へ移行した連邦国家だが、19世紀にイギリスの植民地となり分断統治された影響はずっと尾を引き、宗教対立をベースとした内乱が絶えなかった。

下図を見ればわかるように、この国はちょうどキリスト教勢力圏vsイスラム教勢力圏のぶつかり合う場所になっている。イギリスのありがたくない置き土産だ。

(出典:https://brilliantmaps.com/simple-africa-relgions/)

この地図を載せているページから一部抜粋しよう。

….. it’s Nigeria that is perhaps the most interesting. While not only the largest country in Africa in terms of population (over 180 million) it’s also almost evenly divided between Muslims (50%) and Christians (48%).

面白いのはナイジェリアで、アフリカ最大の1.8億人を超える国民を擁するこの国では、モスリムが50%、クリスチャンが48%とほぼ拮抗しているのである。

ビアフラ戦争(ナイジェリア内線)

イボ族の名を有名にしたのは1967年に起きたビアフラ戦争だ。イボ族はクリスチャンの地域に属し、教育水準も高く比較的裕福な人々だ。これは19世紀にナイジェリアを植民地化したイギリスが東部のイボ族(キリスト教勢力)と北部のハウサ族(イスラム教勢力)を中心に分割統治を行ったからである。

以来、両者は宗教の対立も絡んでいがみ合っていたが、東部ビアフラに油田が発見されると利権衝突で内戦状態に入った。ハウサ中心の連邦政府に対して、イボ中心の東部諸州がビアフラ共和国として独立宣言する。イギリスは連邦政府側を支援したが、フランスはビアフラ共和国を支援して、例によって英仏代理戦争となった。連邦軍の兵糧攻めにより百万単位の飢餓死者が発生し、ビアフラ共和国はわずか2年余りで崩壊した。とはいえ、以下の記事にあるようにいまも断続的に殺戮事件が発生している。

また容易に想像がつくと思うが、石油が出て潤ったのはオイルメジャーとナイジェリア政府・関係企業だけで庶民の生活水準は改善していない。

ボコハラム

ナイジェリアの宗教分断は北東部(下のFigure 1で死者数の最も多い右上の地域)に、イスラム原理主義の武装テロ集団ボコハラムを生んだ。Boko Haramとは “Western (Non-Islamic) education is sin” という意味だそうだ。2015年、ISの下部組織になったという。

ナイジェリアは「アフリカの巨人」と呼ばれるほど大国の潜在力(肥沃な土地、石油、人口、経済をバックにした政治力)を秘めた国だが、所得格差の是正に最も消極的と評価されるなど内部に深刻なきしみを抱える国でもある。国政が機能していないのだ。

一方にラゴスなどの交易で栄える近代都市がある。外国車を乗り回す石油成金がいる。

リッチなナイジェリアを代表する旧首都ラゴス(Lagos)。古くからの港湾商業都市(出典:https://www.reviewcious.com/richest-states-in-nigeria)。

ところが下の2つの図を見てもらえばわかるように、内陸は相対的に貧困な人々が多い。貧困や無教育がテロリストの温床になる構図はナイジェリアでも明らかだ。

以上、暗い話が多かったのは別にナイジェリアに恨みがあるわけではない。むしろ第三世界と呼ばれる国々を象徴する存在として取り上げた。