【音楽】U2:Sheとは誰なのか?主人公は何を「待っている」のか?

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多義的な名曲 “With or Without You”

今日はU2の名曲 “With or Without You” をとり上げよう。

https://www.youtube.com/watch?v=EzeDqRhM09w

この曲は削ぎ落された歌詞で出来ているので様々な解釈ができる。まず歌詞を引用しておこう。

See the stone set in your eyes
See the thorn twist in your side
I’ll wait for you

Sleight of hand and twist of fate
On a bed of nails she makes me wait
And I wait without you

With or without you
With or without you

Through the storm we reach the shore
You gave it all but I want more
And I’m waiting for you

With or without you
With or without you
I can’t live
With or without you

And you give yourself away
And you give yourself away
And you give
And you give
And you give yourself away

My hands are tied, my body bruised
She’s got me with
Nothing to win and
Nothing left to lose

And you give yourself away
And you give yourself away
And you give
And you give
And you give yourself away

With or without you
With or without you
I can’t live
With or without you

(出典:wikipedia commons)

sheは誰なのか?主人公は何を「待っている」のか?

歌詞を多義的にしている犯人はsheという第三者の存在だろう。リフレインを除けば、歌詞は4つのverseで構成されている。そのうちsheが登場しないverseが2つ。登場するverseは2つ。

1番

See the stone set in your eyes
See the thorn twist in your side
I’ll wait for you

無粋ながら意味を通じやすくるために書き換えれば以下のようになろうか。

I see that the stone has been set in your eyes
I see that the thorn twists in your side
I will wait for you.

stoneはつぶて、thornはいばら。どちらも主人公との間に、冷酷さ、無感覚さ、怒り、拒絶のようなネガティブなものを孕む。明らかに両者の関係はよくない。

キリスト教圏において石と茨はともに戦いや迫害の象徴である。当然、イエスキリストの姿が連想されてくる。

2番

Sleight of hand and twist of fate
On a bed of nails she makes me wait
And I wait without you

sleight of hand
「早業」を意味するがそこには「狡猾さ」のニュアンスが伴う。語源は古ノルド語。ラテン系の由来ではない。関連語にsly。

二者の関係のなかへ突如sheが割り込んでくる。sheは狡猾な早業と運命のいたずらで主人を捉え、針のむしろ(のような居たたまれない状況)に陥らせた。つまり三角関係?

にもかかわらず、主人公はyouの不在の状況で何かを「待っている」のだという。何を?

3番

Through the storm we reach the shore
You gave it all but I want more
And I’m waiting for you

嵐に巻き込まれ、岸へ流れ着いてしまった。さまざまないさかいや交渉の後で、行き着くところまで行ってしまったようだ。youは精一杯のものを与えてくれたが、主人公は物足りないという。これ以上youから与えらることは期待できないにもかかわらず、主人公はyouを「待っている」。何を求めて?

4番

My hands are tied, my body bruised
She’s got me with
Nothing to win and
Nothing left to lose

ふたたびsheの登場。sheに手を縛られ、からだは傷だらけ。sheは得るものも失うものも残っていない状態に主人公を追い込んだ。

リフレイン

結局、わかることは主人公がこのような抜き差しのならない状況に決着をつけないで、以下のようにリフレインで繰り返すばかりということだ。

With or without you
With or without you
I can’t live
With or without you

And you give yourself away

youがいても生きていけない、youがいなくても生きていけない。(でも主人公と違い)youはすべてをさらけ出した(あるいは不本意ながら本性をさらけ出さざるをえなかった)。

give oneself away
通常はネガティブな意味。隠していたものが露わになること。「馬脚(本性)をあらわす」、「お里が知れる」、「尻尾を出す」などの意味。

主人は何を「待っている」のか?

youとsheはアクティブな他者である。もしかしたら同一人物なのかもしれない。どちらにしても動かないのは、決着をつけない主人公の存在だろう。主人公はどんな辛い状況でも、何かを「待っている」。だから、この歌の主題は主人公のinactionそのものだといえる。

このinactionがどこから来るものなのか―、それを考えさせる歌なのである。もしかしたら、この人にとって人生は何もせず(起こさず)「待っている」時間の経過そのものなのかもしれない。その方が幸せなのかもしれないのである。

宗教?政治?

U2メンバーの信心深さを知っている人なら、この歌は信仰の揺らぎをうたっているのだと解釈することも可能だろう。彼らは昔所属していた教会を脱会しているのだが、だからといって彼らが信仰を捨てたとはいえないだろう。

たとえば、youやsheを教会あるいはキリスト教コミュニティだと解釈すれば、これは教会(コミュニティ)へのアンビバレンツな感情をうたった歌ということになる。

あるいはもっと原理的に、イエスがいても、イエスがいなくても生きていけないと神そのものに対する揺れを歌っているのかもしれない。

事が複雑なのはアイルランドの場合、そこへ政治が絡んでくるからだ。

トコシエはこの曲を初めて聞いたときから、北アイルランドの政治状況を連想した。UKとアイルランドに引き裂かれる状況、あるいは伝統的なカトリック信仰とプロテスタント信仰に引き裂かれる状況、そのどっちがいいとも悪いともいえない、どっちつかずの状況。そこへ教会という制度、神そのものへの疑念などがからみつく。抜き差しならない状況になるのは当たり前だろう(後日知ったことが、ボノの父親はカトリック教徒、母親は英国国教会のプロテスタント教徒だという)。

北アイルランドのダンルース城(13世紀)

ケルトの神々?

ましてやアイルランドの古層にあるのはケルトの宗教であり、キリストはその信仰に背乗りしているだけに事情はさらに複雑。sheをケルトの神ととらえれば、歌詞はさらに深刻さを増す。

以上のような意味で、この曲は別記事「イギリスとはどこか?ブリテン?イングランド?UK?」で扱ったイギリスの成り立ちに深く関わっている曲ともいえるのである。