【音楽】キャロル・キング:ニューヨーク、南部、イスラエル

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ニューヨーカーの書いたゴスペル・ソング?

キャロル・キングに世紀のロングセラー・アルバム『つづれおり』(Tapestry, 1971)がある。このなかに “Way Over Yonder” という他とは少々趣きが異なる曲が収録されている。黒っぽいフィーリングというか、ゴスペルっぽく響く曲なのである。



曲は以下のように始まる。

Way over yonder
Is a place that I know
Where I can find shelter
From a hunger and a cold
And the sweet tastin’ good life
Is so easily found

タイトルの “Way over yonder” は、辞書的に言い換えれば “way over there”、日本語でいえば「遥か彼方」「ずっと遥か向こう」くらいの意味だ。wayは強調の副詞。

南部方言

“over yonder”はアメリカの南部方言といわれている。説明を聞いてみよう。

Ask a Southerner for directions and, sure, we’ll give you north, south, east, and west, but you’re also in for something a little more complex. In addition to actual roads, you find that directions given by Southerners also make use of moving targets and local landmarks (some of which may or may not still be standing). More often than not, you’ll also hear a classic Southern refrain. A query of “Where is it?” will maybe/probably/almost certainly receive the answer “Over yonder.” Usually, the phrase is accompanied by a vague-to-definite pointing motion indicating the general area in which ‘over yonder’ exists.

thereとyonderの違いは、話者のイメージのなかにある。thereは方向や距離がわりとくっきりわかっている感じなのに対し、yonderの語感はもっと曖昧模糊としている。

この手の「ゆる~い」感じは南部方言の特徴といえる。ぼかす言い方が好きなのだ。こうした特徴は南部が本当の意味でアメリカ合衆国の始まった場所であることと無関係ではない。コミュニティ内の人間関係がアフリカ的な親密さをもっている。言葉や考え方が北部や西部に比べ「まったり」しているのはそのせいである。

世界史の教科書では「ピューリタンのニューイングランドへの上陸」からアメリカ移民が始まったように書いているが、事実は異なる。そのだいぶ前17世紀初頭に南部に入植しているのだ。この間トランプ大統領の失言(?)で騒がれた「ポカホンタス」(Pocahontas)の逸話はその頃のものだ。

したがってyonderの語感は、この曲の「どこにあるかわからないが、どこかにあるはず」という精神的な意味での平安さを求める心境にふさわしい。ゴスペルに南部方言、これをユダヤ系ニューヨーカーが書いたというのが面白いではないか。

旧約聖書

曲の後半の次の箇所に注目だ。

Maybe tomorrow
I’ll find find my way
To the land where the honey runs
In rivers each day

“the land where the honey runs in rivers each day”―このフレーズから連想されるのは旧約聖書のイスラエルに関する形容だ。

When God spoke to Moses at the burning bush, He informed him that He would redeem the Israelites and bring them to a “good and spacious land, a land flowing with milk and honey…”

Honey here (and elsewhere in the Scriptures) is generally understood to be a reference to fruit nectar, specifically date honey―not bees’ honey.

「乳と蜜の流れる場所」は神がヘブライ人に約束した土地カナン(現イスラエル)の美称であり、旧約聖書中に何度も出てくる。注意が必要なのは、honeyとは蜂蜜ではなく、ナツメヤシの蜜だという点。砂漠がちな地方にあってヤシの木は肥沃さ、豊穣さを象徴する樹木であり、ヤシから蜜が溢れてくるというのはよほど肥沃な土地でなければありえない話なのである。

ナツメヤシ(出典:https://www.israelvideonetwork.com/the-land-flowing-with-milk-and-honey/)

キャロル・キングの脳裏には具体的な「まほろば」がイメージされていたのではなく、このカナンの地に象徴されるような、精神的な豊かさと安定がイメージされていたのではないかと思う。アメリカのハートランドである南部方言をタイトルに選んだのも、現代を代表するニューヨークに育ったユダヤ系アメリカ人らしい連想といえるかもしれない。

代表的な南部表現

fixin’ to (do)

“…about to (do)” と同じ意味。「ちょうど~する」「いまから~する」の意味。”fixing” とは異なるので注意。

ya’ll

you all の省略。「みんな」「みなさん」の意味。文法的には “y’all” の方が正しいのだが、このかたちで通用している。

reckon

thinkの意味。