【英語で読むイランのデモ騒動】多極化を阻止したいアメリカの軽挙妄動

2018-01-14時事ネタ

久しぶりの時事ネタとなる。冬季オリンピックを控え、朝鮮半島の融和ムードが演出されているなか、中東のイランがざわついている。

死者も出た抗議デモは革命防衛隊の出動、ソーシャルメディアの封鎖でひとまず収束に向かいそうだ。英米に偏向した日本のメディアにまどわされないように、多角的に事態を眺めてみたい。まず日英対照イギリスの報道記事を紹介した後、トコシエ自身の所感を書いてみる。

 

イギリスの報道:イランで何が起きているか?

出典What’s happening in Iran?

(前略)After 12 years of on-off talks, in 2015 President Rouhani agreed a deal with six major world powers (the US, UK, France, China, Russia and Germany) which saw the sanctions lifted in return for Iran cutting back its nuclear activities.
It was hoped that this would help Iran to rebuild and get the country back on its feet again.

(前略)12年間にわたる公式・非公式の折衝の結果、2015年、ロウハニ大統領は、主要六か国(米、英、仏、中、露、独)が経済制裁を解除することを条件に、イランの核開発プログラムを縮減することに合意した。これによりイランが経済を立て直し、国家再建に向かうことが期待された。

Despite this, President Rouhani hasn’t delivered what the people of Iran had hoped he would. The situation for ordinary people living in Iran has not got much better.

These new protests broke out because people are frustrated about this. Food prices are still high, the standard of living is low and many people don’t have jobs. They are also unhappy because many think their leaders are not running the country in an honest way.

しかし国民生活にさしたる改善は見られず、ロウハニ大統領は国民の期待に見合う成果をあげていない。

食品価格は高騰したままであり、失業も多く、生活水準は低迷しつづけている。今回のデモの最大要因はこの状況に対する抗議である。多くの国民は指導者がウソをついていると感じ不満を抱いている。

However, since the protests started, the reasons that people are angry developed into something much bigger. Many started chanting against the government, calling for their Supreme Leader to go.

People are also angry about Iran getting involved in fighting in other Middle Eastern countries, like Syria, because this costs a lot of money, which they say they need in their own country.

抗議デモは国民の怒りに火をつけ、より大きなうねりとなって、最高指導者の引退を求める声が上がり始めた。

イラン政府がシリアなど他の中東諸国の紛争に関与していることも国民の怒りを買っている。国民に使うべき多額のカネが紛争関与に流れているというわけだ。

President Rouhani said that citizens are “completely free to make criticism and even protests”, but some people have criticised this as they say that in the past Iran has tried to stop people from protesting.

Rouhani added that the government would not tolerate any action that caused “social disorder”, the Iranian Students News Agency reported. The protests have led to violence in which some people have been killed.

ロウハニ大統領は「批判も抗議も完全に自由である」との声明を発表したが、政府が抗議を押さえつけた過去を指摘し、この発言を批判する一部の声もある。

イラン学生ニュースの報道によれば、ロウハニ大統領は「社会不安」を引き起こすいかなる行動も許さない、と付け加えたという。抗議デモは死者数十人を生む暴力に発展している。

This is the most significant unrest the country has experienced since 2009, but there are differences this time.

現在の抗議運動は2009年以降最大規模のものとなったが、今回は性質が異なる。

Firstly, the protests in 2009 were more focused on the country’s capital city, Tehran. This time, it has spread out across the country, with lots of protests taking place in smaller, poorer areas of the country – not just the capital.

第一に、2009年の再選挙要求は首都テヘランを中心に起こったが、今回の抗議は、特に貧困にあえぐ地方を含め、イラン全土に広がっている。

Secondly, there aren’t clear leaders in a more organised movement, like the Green Movement. There are lots of different groups who are unhappy and many protestors appear to be poor, unemployed people all over the country.

第二に、2009年の「緑の運動」で見られた組織的運動とは違い、今回の抗議には明確な主導者がいない。不満はさまざまな社会階層に広がっているが、抗議者の多くは全土の貧困世帯、失業者などと見られている。

In 2009, it was also clearer from the beginning of the unrest what the protestors were unhappy about and what they wanted. This time, the protests have developed into something much bigger than what they were when they first started.

2009年の抗議運動では、最初から再選挙の実施が目的であったが、今回の抗議は小さく始まり、目的がはっきりしないまま全土へ拡大していっている。

The world has reacted to the news of the unrest. The US, Israel and Saudi Arabia have all spoken out supporting the protestors.

イランの騒乱に対してアメリカ、イスラエル、サウジアラビアはいち早く抗議者への賛同を表明した。

On social media, President Donald Trump shared his respect for those protesting and criticised the Iranian government. He is also opposed to the deal Iran made over its nuclear activities.
The Iranian government responded by saying he should focus on what’s going on in his own country.

ドナルド・トランプ米大統領はツイッターでイラン国民に敬意を示し、イラン政府を批判した。また、イランが核開発プログラムに関して結んだ協定についても反対の意思を表明した。
イラン政府はこれに対して、トランプ氏は自国の問題に集中せよ、と応酬した。

The EU called on Iran to guarantee people’s right to protest peacefully and said it was monitoring the situation.

EUは平和的な抗議の権利を保証するようイラン政府に要請し、状況を見守るとコメントした。

It is hard to know what will happen next, but this is a big challenge to the rulers in Iran. Whether or not the protests stop completely, it has showed that many people in Iran are unhappy with how it is being run and who is in charge.

今後の展開は予断を許さないが、イランの指導者にとって大きな試練であることは確実だ。騒乱が完全に終息するかしないかに拘わらず、イラン国民の多数が政府の国家運営のやり方、そして指導者そのものに不満を募らせているのは明らかだろう。

<記事引用終わり>

最新の情勢

「アメリカ、イスラエル、サウジアラビア」の反応しか紹介していない時点でBBCの偏向は明らかだ。日本にいるとこのような英米寄りの報道が日常茶飯事なので「国際社会」といえば英米の目から見たものに限定されてしまう。本当のところはよくわからないのである。

英米系以外の情報ソースに目を通すクセをつけよう

ところがその気になれば、いまはネットを通じて現地や英米系以外の英語ソースに当たれるのである。事態は犠牲者20数名出したが、イラン政府の素早い対応で収束に向かっている。イラン国内では、殺人に発展した過激な抗議行動に反対し、政府を支持するデモが起きていたくらいである。

アメリカの思惑に応じなかった国連安保理

アメリカが今回の騒動をネタに国連安全保障理事会の緊急会議を招集した件については、NHKの報道がイラン国内の報道と大筋で一致しているので抜粋する。

イランで反政府デモが広がって治安当局との衝突で死者が出ていることを受けて国連の安全保障理事会では緊急の会合が開かれ、アメリカは、安保理が結束してイランに人権状況の改善を求めるよう主張しましたが、ロシアや中国が内政問題だとする立場を表明し、一致したメッセージを打ち出すことはできませんでした。

要するに、事態を大ごとにし、イラン政府の弱体化を狙ったアメリカの思惑は外れたということである。

英米への気遣い

ただ「一致したメッセージ出せず」というタイトルはいかがなものか?結論は否決である。「一致」していないのはアメリカだけであって結論は出ている。そもそも本件は国連に諮ること自体、イランへの内政干渉だろう。緊急会合の招集そのものが無理筋なのである。

また「反政府デモ」という表現にも問題を感じる。イギリスの記事を読むとわかるように、単にprotestといっているだけで “anti-government protest” という表現はどこにも出てこない。デモは物価高や高失業率への抗議ではあるが、政治体制そのものへの批判ではない。通常の民主主義国なら当たり前の意思表示行動である。

おそらくNHKの「意訳」は、過去にはなかった、最高指導者の退陣を求める声が上がった事実に基づくと思われるが、それを発したのはごく一部の人間である。

邪推かも知れないが、相手の急所(この場合、絶対的な権力を付与されている最高指導者)を突くのは昔から米CIAがよく使う手口だ。イラン社会が非民主的で、政府が抑圧的だというイメージを作り出したい。しかし事態が狙い通りにイラン政府を弱体化させる動きに発展していかないので、苛立って過激な言動を煽ったのだろうと思う。

それから、いかにも中露の反対だけで否決されたかのように報じているが、フランスも反対している。国連代表のみならずマカロン大統領もアメリカの対応を非難しているくらいだ。完全にアメリカの勇み足なのである。

イランの成長率は7%台

またイギリスの記事ではロウハニ大統領の経済失政が抗議の原因であるかのように伝えているが、公式報道によれば、イランの今会計年度(毎年3月20日が年度末)のGDP成長率は7%台に達する見込みだという。イラン国内の英語ソース(Tehran Times)を抜粋しよう。

出典Iran’s projected 7% GDP growth not driven by oil: fin. min.

“The country’s GDP is projected to reach seven percent by the end of the current Iranian calendar year (March 21),” the official added.

Iran’s oil exports rose significantly during the last Iranian calendar year (March 20, 2016- March 20, 2017) since the west-imposed sanctions on the country were lifted and Iran regained most of its lost oil market share.

前の会計年度の成長率は12%台だったから成長が鈍化しているように見えるが、これは経済制裁解除を受けた石油輸出の激増(回復)による特需なので割り引いて考えるべきだ。石油輸出額はほぼ横ばいだというから、石油輸出を除く成長率は、前年度の6%台に対して今年度7%なのだから健闘しているといえるだろう。

10年以上の経済制裁はイラン経済を疲弊させたことは事実だろう。回復途上にあるとはいえ、現代経済の構造上、経済回復の恩恵を国民にに行き渡せるのは容易ではないし、時間がかかる。そのことはアベノミクスの恩恵を感じない人の多さを知る日本人なら理解できるだろう。だから、今回の抗議運動はごく当たり前の不満に発する、ごく当たり前の「内政問題」だったのである。

アメリカが反イラン攻勢を強めるのはなぜか?

では何がそんなにアメリカを苛立たせているのか?あるいは焦らせているのか?

イランとサウジアラビアを反目させ、イランの影響力をそいで中東のコントロールをサウジとイスラエルに任せたいのは昔からの意向なのでわかる。しかし、昨年あたりからオバマ政権時の対イラン宥和路線(核合意)をひっくり返し、サウジの若いムハンマド皇太子を強硬路線に向かわせているのはなぜか?

反ドル同盟への牽制

おそらく「大がかりな紛争」を求める軍産複合体の意向があるのだろうが、それにしてもなぜいまなのか?

おそらくロシアのイランへの接近である。イランはロシア版TPPともいえるユーラシア経済連合(EAEU: Eurasian Economic Union)に今年正式加盟する予定なのである。

EAEUにはロシアの他、カザフスタン、キルギス、ベラルーシなどのユーラシア内陸国、アルメニアというコーカサス国が加盟していて、ここに中東の大国イランが加わると俄然「反ドル同盟」の重みが増す。

ウクライナをつっかえ棒にされて黒海へのアクセスがままならなくなったロシアは、EAEUを通じてイラン経由で海へのルートを確保する狙いである。またインドに対しても石油供給ルートを構築したい動きが観測されている。石油だけではなく、その先には中東への進出も視野に入っているのだろう。

アメリカとしては、いまイランの政権を倒さないと間に合わないのである。

中国の「一帯一路」構想とのリンク

ロシアにとってウクライナやカザフスタンなどの中央アジア平原はソ連時代の「裏庭」であって、そこへ中国がちょっかいをかけているのは心穏やかではない。自分が中国とヨーロッパを結ぶ媒介としてプレゼンスを高めるチャンスでもあるが、主導権を中国の「一帯一路」にとられるのは癪であろう。だから中国のプランには賛同するポーズをとりつつ、EAEUでイランを味方につけて、「裏庭」諸国を囲い込む経済戦略は理にかなっている。

イラン革命のインパクト

アメリカがイギリスから引き継いだグローバリゼーションが世界経済の相互依存度を強め、ネオリベ思想を世界中に普及させ、マネーゴッドへの拝跪を強めたのは確かだ(マネーゴッドの意味については、姉妹サイトの趣意を書いた記事を参照してほしい)。

多極化へ再編され始めた世界

「ロシア、イラン」のラインが「アメリカ、イスラエル、サウジアラビア」のラインに対峙する図式は俗にイラン包囲網と呼ばれるが、いったい彼らは何を争っているのか?中東の覇権か?イスラエルの台頭か?

アメリカ側からいえば、マネーゴッドの権化「ドル基軸通貨」体制の護持だろう。アメリカがこの「一神教支配」を失えば、パクスアメリカーナの時代は消滅し、世界は急速にブロック化せざるをえない。

逆に挑戦者のロシア側から見れば、一神教支配の終焉、通貨の多神教化だろう。プーチン大統領は事あるごとに、今後の世界は “multipolarity” が決定していくと述べている。

日本でよく言われるように、シーア派とスンニ派の宗教対立が根っこにあるというような説明も眉唾なのではないかと思う。これは明らかに1979年のイラン革命以来に出てきた議論で、その反響のひとつである。

(そもそも中東諸国は同じセム族の共同体であり、根源的対立など存在しない。アラブ人と民族が異なるのはアーリア系のイラン人とテュルク民族のトルコ人である。中東史の大国はオスマン帝国とペルシャ帝国のいずれかというのが定番である。)

欧米世界はイラン革命を正当に評価できていない。例によって歴史的な因縁を背景に持つ、意図的なネグレクトを行っている。

左翼勢力によらない画期的な政治革命

イラン革命についてはいずれ記事を書いてみたいが、簡単に言うなら、近代政治史上初めて「左翼・リベラル以外の勢力」が成功させた政治革命だという点で衝撃的であり画期的なのである。

一見、宗教革命のように見えるが実質は違う。イランは帝政のシャー(shah、パフラヴィー国王)を追い払い、専制独裁を廃した。革命政権の長の座にはイスラム法学者ホメイニ師が就いた。革命後のイラン国家元首は最高指導者(ペルシャ語ではrahbar、ラフバル)であり、終身制かつ絶大な政治権力を誇る。この最高指導者の下に、行政の長である大統領がいる。政治権力の部分を除けば、宗教権威者が国家元首の地位にある点で、日本の天皇と総理大臣の関係に似ている。

そしてこの点をいちばん見逃しがちなのだが、イラン国民が革命を支持したのは伝統的な宗教支配の復活を望んだのではなく、言論の自由や基本的人権の保障といった民主主義体制の樹立を求めたからである。第三国が勝手に「イスラム革命」などというあだ名で呼ぶことはイラン国民に失礼なのだ。

つまり、極めて近代的で世俗的な国民の要求を、宗教者が中心となって実現したという稀な政治事件だったのだ。先に引用した記事で、ロウハニ大統領が「批判も抗議も完全に自由である」と声明したのは、別に欧米メディアへのリップサービスではなく、民主主義的価値観の追認に過ぎない。

アメリカの歴史理解の浅さが事態を紛糾させている

イラン革命の反響はまず中東各地でのシーア派の台頭によって現実化したのだが、イラン自身が驚くことに、数年前アラブの春にまで反響していったのだった。

こうして見てくると、アメリカの「抑圧的なイラン政府vs自由を求める国民」という印象操作が、いかに現実を見ない、意図的な無理解とも呼ぶべき動機に根差すものかわかるだろう。

イランと対立するかに喧伝されるサウジアラビアは、イランとは対照的に近代化への動きを封殺することに躍起になっている政体である。ムハンマド・ビン・サルマン皇太子という若き強権的リーダーが暴れている。

自由と民主主義のプロモーターであるアメリカが組む相手としては変といえば変ではないか。

イランvsサウジはイラン優勢

最後に、そのイランvsサウジのバトルと呼ばれるものの現実を以下の記事から紹介しておく。

出典中東を制するのはサウジではなくイラン(ニューズウィーク日本版)

サウジアラビアとイランは、中東のさまざまな場所で対立してきた。ここ10年の主な舞台は、イラクやレバノンなど機能不全に陥った国家、あるいはシリアやイエメンなどの崩壊国家だった。これらの国では紛争後の主導権争いが繰り広げられており、サウジアラビアとイランはそのすべての国で代理戦争を戦ってきた。

そして今のところ、どの国においても優位にあるのはイランだ。(中略)

イランとサウジアラビアの成績をまとめると、こうだ。これまでのところ、イランはレバノンを事実上掌中にし、シリアとイラクでは勝ちつつあり、イエメンではサウジアラビアに多大な犠牲を支払わせている。

どの国の場合でも、イランは有効な「代理人」を立てて政治的軍事的な影響力を行使してきた。イラン政府は敵の中にほころびを見つけて利用するのもうまい。