【文化の重層性10-1】イルミナティと神秘思想:ミトラス秘儀と混血ネットワーク
2018-06-07宗教, 文明文化の話, 歴史, 神秘思想・秘儀宗教
イルミナティと神秘思想・秘儀宗教の関係について全3回のシリーズでお伝えする。ここでいうイルミナティは固有名詞としてよりも、西洋文化第二層を形成する上で影響力の強かった勢力の代名詞位に考えてほしい。
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コンマゲネとミトラス秘儀の発生
鍵を握るのはヘレニズム時代の小アジア(とくにアルメニア系)。東西思想を混淆するルツボとなった地域だ。
大国ギリシャ・ローマとペルシャに挟まれたこの地域は、東西移動の要衝に位置するため、人やモノや思想の出入りが激しい。
コンマゲネと呼ばれる小国に注目。このアルメニア系小国と “ユダヤ” の血の結びつきが、歴史の流れを変えた可能性が高い。
コマンゲネ(CommageneまたはKommagene、BC163-AD72)は、アレクサンダー大王の死後、この周辺を支配したマケドニア帝国(セレウコス朝シリア)が、東のイラン系パルティアの台頭などに押されて弱体化した隙をとらえて独立を果たした。初代国王はアルメニア系オロント家のプトレマイオス(Ptolemy)。地図上、左下の薄いピンクの小さな領域がコンマゲネだ。
ユダヤ人とは誰か?
今シリーズのネタ元は歴史家デヴィッド・リヴィングストーン氏の英文だ。陰謀論寄りではあるが、提供されている情報は取り上げる値打ちがあると判断した。とくに小アジアの情報は日本人の盲点になりやすい。
リヴィングストーン氏の基本スタンス
記事に入る前に、筆者の陰謀研究者デヴィッド・リヴィングストーン氏の基本スタンスと、イルミナティに深く関わるユダヤ人の概念について補足しておこう。
リヴィングストーン氏はイルミナティ謀略説の立場に立っている。彼によれば、フリーメイソン、薔薇十字団、十字軍などの活動はすべてイルミナティの悪魔崇拝、秘儀伝統、グノーシス主義の伝統に基づいている。
この伝統は18世紀はじめ、いわゆる啓蒙思想(Enlightenment)となって一気に文化の表面(第一層)へ浮上、自由主義、民主主義、金融資本主義などへ変化してメインストリームを形成した。
ユダヤ人について
注意しなければならないのは、イルミナティはいわゆる “ユダヤ人” 組織ではなく、むしろ反 “ユダヤ主流” 派であり、多様な血脈の混在ネットワークである点か。
現代のユダヤ人は血縁をベースにした民族・人種ではない
ユダヤ人という概念はとてもつかみにくい。現在イスラエル国はユダヤ人の認定条件として2つを挙げている。
- 本人がユダヤ教徒であること
- 母親がユダヤ人であること
母系継承が重んじられるのだ。父母の人種・民族は問わないのである。ユダヤ人とは民族でも人種でもなく、ユダヤ教という宗教をベースにしたつながり(アイデンティティ)ということになる。
古代はヘブライ人という民族・人種だった
こういうことになったのはディアスポラ(離散)の結果だ。
イスラエルは南北分裂後、二度にわたり他国の侵略を受け、ヘブライ人(当時のユダヤ人はこう呼ばれる民族だった)の大半がパレスチナ(カナン)から出ていってしまう。
一度目は北のイスラエル王国がアッシリア帝国に滅ぼされ、イランやアルメニアなどへ強制移住させられたとき、二度目がアッシリアに服属して存続していた南のユダ王国が新バビロニア王国に滅ぼされ、バビロンへ連行されたときだ。
その新バビロニアがアケメネス朝ペルシャに滅ぼされるとイスラエルへの帰還と、破壊されたイスラエル神殿の再建を許されたものの、全員が戻ってきたわけではない。
再建後のイスラエルはその後ローマ帝国の支配下に入るが、結局滅ぼされてしまう。
ユダヤ人は必ずしも一神教徒ではない
ポイントは2つ。
- 同じ旧ヘブライ人でも、本来は多神教徒だった北の10支族と早くから一神教徒になった南の2支族)がいる点。現代風にいえば、北10支族は保守派、南2支族は革新派。
- その後の混血によりヘブライ民族としてのアイデンティティは消滅し、ユダヤ教という抽象物にアイデンティティを求めている点。多神教志向でも、生き残るために仕方なくユダヤ教やキリスト教に改宗していった者は多いはず。
とくに10支族の血筋を引く純粋な非一神教徒の離散民から見れば、現代イスラエルのユダヤ人認定条件は許しがたいものだろう。完全に南2支族の目線だからだ。
イルミナティ本体はエドム人
実はイルミナティ、このヘブライ人たちのつくった組織ではない。その中心になったヘロデ家の人々は、上の地図でユダ王国の南で境を接しているエドム王国(Kingdom of Edom)出身者だ。アブラハム→イサク→ヤコブ→・・・と連なる系統がヘブライ人の本流だとすれば、エドム人は非主流化したヘブライ人の家系である。
エドム人の祖はヤコブの双子の兄エサウ。彼は母親とヤコブの計略にかかって長子相続の権利を失ってしまい、陰の存在に追いやられた気の毒な人だ。
離散後のユダヤ人は3系統に分かれる
離散後、ユダヤ人は離散先によって主に3系統に分かれている。
- スファラディ(Sephardi、Sephardic Jews、ときに複数形のSephardim)・・・先祖がイベリア半島へ移住(ヘブライ語でスペインを意味するセファラドが語源)。15世紀にスペインを追放され、多くはトルコやオランダ(その後イギリス)へ移住。
- アシュケナージ(Ashkenazi、Ashkenazic Jews、ときに複数形のAshkenazim)・・・先祖がドイツを中心とする地域へ移住(アシュケナージはヘブライ語でドイツを意味する)。その後、中欧、東欧へ拡散。イスラエル建国の主体。
- ミズラヒ(Mizrahi、Mizrachi Jews、ときに複数形のMizrahim)・・・ヘブライ語で東を意味する。西はモロッコ、南はイエメン、東はアフガニスタン・インドにまたがる中東・西アジア、北アフリカなど、主にイスラム教世界に定着。
イルミナティとミトラス秘儀
イルミナティの起源
原文は長文なので抜粋とし、逐語訳は煩雑なのでなるべく要点のみを記すようにする。
以下はイルミナティの起源について語っている部分。
It was in the dissemination of the original Mysteries of Mithras, that we find the first coalescence of those families which would ultimetely produce the leading Illuminati bloodlines. This network was centered around the House of Herod, and included an important Armenian bloodline from Cappadocia, of mixed Alexandrian and Persian heritage, a hereditary Syrian priesthood of Baal, and the family of Julius Ceasar. It was these families that were involved first in the formation and spread of the Mithraic cult, and ultimately, in a conspiracy to supplant the Christian Church, which succeded when one of their descendants, Constantine the Great, implemented Catholicism, which was but an assimilation of Mithraism, by associating Jesus with the cult of the dying-god.
今日至るイルミナティの主要血脈はミトラス教の伝播を通じて形成された。血脈は(エドム出身の)ヘロデ朝を中心に、以下の諸家で構成される。
- カッパドキアのアルメニア血統(アレクサンダー大王系とペルシャ系の混血)
- シリア世襲司祭階級のバール崇拝
- ローマ皇帝ユリウス・カエサル一族
この人々がミトラス教をつくって広め、キリスト教会を乗っ取った。一族出身のコンスタンティヌス大帝がカトリック教会を樹立。カトリック教会はイエスと再生神カルトを化させた組織体であり、事実上はミトラス教の普及を図る教会。
dying-and-reviving god、resurrection godともいう。世界各地の神話・伝説に登場する神では生き返る神のこと。再生神、死と再生の神。
While the trail of these relationships are complicated and detailed, it is essential to examine them, in order to properly understand the origin, direction and beliefs of their successors. Initially, the cult of the Magi was most prevalent in that part of Asia Minor, that is, of Armenia, Cappadocia and Pontus.
これらの人脈は複雑多岐にわたるが、その後のイルミナティの発展、その方向性や信条を知る上では詳しく見ていく必要がある。当初、有力だったのは小アジアのアルメニア、カッパドキア、ポンタスで活躍するペルシャ系マギのカルトだった。
小アジアのミトラ崇拝
次に、ミトラス教研究の権威フランツ・キュモン(Franz Cumont)の引用が挟まる。
“… The frequency of the name Mithradates, for instance, in the dynasties of Pontus, Cappadocia, Armenia and Commagene, connected with the Achemenides by fictitious genealogies, shows the devotion of those kings to Mithra.”
「・・・ポンタス、カッパドキア、アルメニア、コンマゲネなど小アジア周辺の王朝にはミトラダテスを名乗る者が多く、ミトラ崇拝の強さがうかがわれる。」
… the Mysteries of Dionysus, which influenced Orphism, were in imitation of those practiced by the Magi. Therefore, some primitive form of occult rite must have existed among them. More recently, though, Roger Beck has provided an intermediary theory, in which he proposes that the cult of Mithraism was created in Commagene.
オルフェウス教に影響を与えたディオニソス秘儀はマギの秘儀を真似たもの。したがって紀元前にミトラス教の原形となる秘儀祭祀が生まれていたことは確実視される。古文献学者ロジャー・ベックは、その仲立ち役としてコンマゲネの存在を指摘し、ミトラス教はコマンゲネで創作されたという説を唱えている。
ヘレニズム文化下での神々の習合
それはどういうことかといえば、コマンゲネの王家はアレクサンダーとペルシャ王と両家から血を引く者が存在したからだという。
Ptolemy’s son Mithradates I Callinicus of Commagene embraced the Hellenistic culture and married Laodice, a Seleucid princess. Thus, their son, Antiochus I of Commagene, who lived from 69 BC to 40 BC, could claim dynastical ties with both Alexander the Great and the Persian kings. The combined heritage found in Antiochus led to the assimilation of Mithras with the Greek Hercules, which marked the first early form of the Mithraic cult.
コマンゲネを建国したプトレマイオス王の息子、ミトラダテス1世はヘレニズム文化を重んじ、セレウコス朝のラオディケを娶った。したがってミトラダテス1世の息子アンティオコス1世の代になると、コマンゲネ王家はアレクサンダー大王とペルシャ王家の血を継ぐことを宣明できる。その影響でペルシャのミトラとギリシャのヘラクレスが習合され、ミトラス秘儀の萌芽となった可能性がある。
ネムルト山頂のアンティオコス1世墓所・巨大神像群
Antiochus is most famous for founding the sanctuary of Nemrud Dagi, an enormous complex on a mountain-top, featuring giant statues of the king surrounded by gods, each god being a synthesis of Greek and Persian gods, where Apollo is equated with, Mithras, Helios and Hermes. The gods are flanked a lion and an eagle. The lion may be the lion of Judah, representing Jewish heritage, while the eagle is the heraldic symbol of the Tribe of Dan, representing another line of Jewish heritage from the Greeks, the descendants of Danaus, by way through Alexander the Great.
アンティオコス1世の名を広めたのは何といってもネルムト山(Nemrud Dagi)山頂の聖域だろう。王自身の巨大神像が、アポロン、ミトラ、ヘラクレス、ゼウスなどギリシャとペルシャの神々の巨大神像と並び立っている。神像群はライオン像とワシ像を脇に従えている。ライオン像はユダ族のシンボル、ワシ像はダン族の紋章かもしれない。
上記引用文で言及されている神々が、一部、図像の神群と違うので「アポロン、ミトラ、ヘラクレス、ゼウスなど」とした。いずれにしてもギリシャとペルシャの神々の間にアンティオコス自身がいる。これらの神々を挟むように、ライオンとワシが2組脇を固めている。つまり、コンマゲネ王国は、王家がギリシャ=ペルシャ系、臣下の中心がユダヤ系と見なせるということになろうか。
ネルムト山
世界遺産に認定され、トルコで人気の観光地になっている。神像は倒壊してゴロゴロ散らばているようだ。
神像台座の裏面に刻まれたギリシャ語墓碑銘から、ここがアンティオコス1世の墓所であることは確かなようだが、地下の埋葬施設は掘り起しが危険なため確認されていないという。
せっかくなので、お世話になっている出典元サイトが提供してくれている碑文の和訳も載せておく。
幸いに満ちた 我が祖先のルーツたるペルシアとギリシアに古くから伝わるように ・・略・・
尊き王者には 格別の栄誉を贈るべし それゆえに 天の王座に近く
時の流れに損なわれることもない この峰を 神聖な安らぎの場と定めよう
神の恩寵をこうむった余の敬虔な魂が 天帝ゼウスオロマスデスの みもとへと 旅立つとき 余の老いた肉体は ここで永遠の眠りにつこう
そして この聖なる場の 我が祖先の偉大な友である すべての神々の像ばかりでなく デーモンの像(守護神としてのワシとライオン)もまた この山を霊峰とし 永遠に続く余の信仰の証しとなろう ・・略・・
ミトラス秘儀の本質
The House of Commagene combined with the family of Herod the Great, the Syrian priest-kings of Baal, and the family of Julius Caesar, who took the early symbolism of the Mithra worship of the heretical Magi, and combined it with the emerging Kabbalistic mysticism, to form the Mysteries of Mithras.
Essentially, the Mithraic mysteries adapted the ancient king-worship of the Babylonians, to the worship of the emperor, as a personification of their god the Sun. Through the influence of the Commagenian dynasty, this cult retained its Persian themes, but represented its god Mithras with the physical form of Alexander the Great, their progenitor.
コンマゲネ王家、ヘロデ王家、シリアのバール神司祭王、ユリウス・カエサル一族は、(伝統的な)ミトラ信仰を通じて異端派マギが古くから保持していたシンボリズムを採用した。それに新興の(ユダヤ教)カバラ神秘思想を採り込んでミトラス秘儀に仕立てた。
ミトラス秘儀の本質は、太陽王の擬人化を通じて、古代バビロニアの王崇拝を皇帝(アレクサンダー大王)崇拝に置き換えたもの。コンマゲネ王家の影響でペルシャ風の意匠は残存するもミトラ神が盟主アレクサンダー大王として形象化されているのはそのため。
アンチキリスト・アンティオコス4世
The person through which the House of Commagene was able to enter into contact with that of Herod, in addition to the family of Julius Ceasar, to produce the Mithraic bloodline, which went on to produce the leading conspiratorial families of Europe, was Antiochus IV.
コンマゲネ王家をヘロデとカエサルの家系に食い込ませた立役者は、セレウコス朝シリアの王アンティオコス4世エピファネスだった。
ここからは長く込み入った文章が続くので概略を要約すると、アンティオコス4世はコンマゲネ家のアンティオコス1世のひ孫に当たる。
アンティオコス1世はローマに抵抗したが、結局は属領になった。しかし隣接するキルキアの海賊集団と結び、ミトラス教をローマに伝える。これがミトラス教がローマで流行する引き金になったようだ。
アンティオコス4世はユダヤ人の天敵として有名な王。アンチキリストの象徴とも、最後にユダヤに襲い掛かる獣ともいわれる。決定的に恨まれたのはエルサレムの神殿から財貨を盗んで売り飛ばしたのみならず、ゼウスの像を設置したこと。偶像崇拝を忌み嫌うユダヤ教の聖地に異教の神を持ち込むのはタブー中のタブーである。
コトバンクから彼の生涯を概観する。
父王の征服地をめぐってプトレマイオス朝エジプトと対立,前 169年エジプトに侵入,ナイル川流域を征服,翌年再度エジプトに侵入してアレクサンドリアを征服したが,同年6月マケドニアを破って勢いに乗ったローマの介入するところとなり,エジプトからの撤退を余儀なくされた。ギリシア・ローマ文化に心酔し,ヘレニズム文化による帝国統一を夢み,ギリシアの文化と宗教を拒むユダヤ教を迫害してマカベアの乱を引起し,ユダヤにハスモン朝を生み出すとともに,今日のシオニズムと20世紀のイスラエル建国に強い影響を及ぼす結果となった。
旧約聖書『ダニエル書』には預言者ダニエルが見た予知夢の解釈として次の記述がある。
あなたが見た雄羊の持つあの二本の角は、メディアとペルシャの王である。
毛深い雄やぎはギリシャの王であって、その目と目の間にある大きな角は、その第一の王(アレキサンドロス大王)である。
その角が折れて、代わりに四本の角が生えたが、それはこの国から四つの国が起こることである。しかし第一の王のような勢力はない。
彼らの治世の終わりに、彼らのそむきが窮まるとき、横柄で狡猾なひとりの王(エピファネス)が立つ。
彼の力は強くなるが、彼自身の力によるのではない。彼はあきれ果てるような破壊を行ない、事をなして成功し、有力者たちと聖徒の民を滅ぼす。
彼は悪巧みによって欺きをその手で成功させ、心は高ぶり、不意に多くの人を滅ぼし、君の君(神)に向かって立ち上がる。しかし人手によらずに、彼は砕かれる」(ダニエル書8:20-26)
バビロンの大淫婦
アンティオコス4世は『ヨハネの黙示録』にも関係してくる。黙示録の終末預言に登場するバビロンの大淫婦。
大淫婦バビロン(Whore of Babylon、Babylon the Great)は「悪」の寓意で、これまで様々に解釈されてきた。バビロンは南王国のユダヤ人指導層が、新バビロニアのネブカドネザルによって捕囚された先。捕囚といっても捕虜や奴隷ではなく、単なる集団疎開という感じだったらしい(捕囚の実態については資料が存在しない。バビロンへの直接的言及があるのも旧約聖書のみ)。50年ほど後にペルシャのキュロスによって解放された後も、イスラエルに戻らなかったユダヤ人が多かった。きっとバビロンでの生活は過酷なものでなかったのだろう。ただ、これがその後のディアスポラのきっかけになったことは事実。
『ヨハネの黙示録』原文の一部を引用しよう。
あなたの見た獣は、昔はいたが、今はおらず、そして、やがて底知れぬ所から上ってきて、ついには滅びに至るものである。地に住む者のうち、世の初めからいのちの書に名をしるされていない者たちは、この獣が、昔はいたが今はおらず、やがて来るのを見て、驚きあやしむであろう。
ここに、知恵のある心が必要である。七つの頭は、この女のすわっている七つの山であり、また、七人の王のことである。
そのうちの五人はすでに倒れ、ひとりは今おり、もうひとりは、まだきていない。それが来れば、しばらくの間だけおることになっている。
昔はいたが今はいないという獣は、すなわち第八のものであるが、またそれは、かの七人の中のひとりであって、ついには滅びに至るものである。(ヨハネ黙示録17:8-11)
ここに「七人の王」とされているのはエルサレムを支配した異邦人たちの国を指すという解釈がある。
- エジプト帝国(BC1600-1400)
- アッシリヤ帝国(BC721-607)
- バビロン帝国(BC606-536)
- ペルシャ帝国(BC536-330)
- ギリシャ帝国(BC330-146)
- ローマ帝国(BC146-AD1453)
- トルコ帝国(AD1038-1922)
「ひとりは今おり、もうひとりは、まだきていない」は、黙示録が書かれた時代の支配者ローマは今いるが、トルコのオスマン帝国は「まだきていない」という意味になる。この「七人の中のひとり」が「第八のもの」であるが、それがギリシャ帝国のアンティオコス4世だというわけだ。ひどい嫌われようだ。
このアンティオコス4世(ギリシャ+ペルシャ)が、ヘロデ(アンチユダヤ)とユリウス(ローマ)を結びつけたとすれば、確かに大変なことである。
第三の血脈:シリアのエメサ世襲王家
Along with Commagene and the Julio-Claudian families, a third would be introduced into this mix, which would feature in not only the creation of Mithraism, but its continued preservation through the centuries, culminating in the Illuminati families of Europe.
That family was the hereditary priest-kings of Emesa. The Royal Family of Emesa, today Hims in Syria, was a dynasty of Priest-Kings who formed a powerful and influential aristocracy. Emesa was renowned for the Temple of the Sun, known as Elagabalus, a derivation of Baal, adored in a shape of a black stone. Around 64 BC, Pompey the Great had reorganized Syria and the surrounding countries into Roman Provinces, and had installed client kings, who would be allies to Rome. One of those client kings, would be Sampsiceramus, the founding member of the Priest-King dynasty of Emesa.
コンマゲネ王家、ユリウス・クラウディウス王家に続く第三の血脈としてイルミナティに加わったのが、シリア・エメサ(ヘメサ)司祭の世襲王家だった。この血脈の導入でミトラス秘儀が完成に向かい、エメサはヨーロッパのイルミナティ家系を構成する最後の血脈となった。
エメサ(現シリア・ホムス)はもともとローマの軍人ポンペイウスの意向で建てられた。シュメールのエル神とギリシャのヘリオス神の習合から生まれた太陽神エル・ガバル(El-Gabal)を代々祀り、世襲の祭祀王が政治王を兼務した。エメサ王のひとりサムプシケラムスは、ポンペイウスの指示の下、セレウコス朝を滅ぼしたことで知られる。
エメサがイルミナティに加わったのは、ヘロデ王家のアグリッパ1世(『使徒行伝』に登場するヘロデ王)が妹ドルシラをエメサ王アジズスに嫁がせたのがきっかけだった。以後、イルミナティのネットワークはローマに協力してユダヤ人を抑圧し、ユダヤ戦争で勝利してヨーロッパ進出の足掛かりをつかむ。
そういうことなら、新約聖書がアンティオコス4世を蛇蝎の如く憎み、アグリッパ1世をエルサレム教会や使徒を篭絡しようとした悪役として登場するのは、さもありなんということになる。
イルミナティの反ユダヤ性
エラム人ヘロデ1世についての補足
ここまで記述を読んでくると、イルミナティと呼ばれる秘密結社の原点がヘロデ家にあることがわかる。ヘロデ1世についてはマタイ書の、イエスが誕生した際の記述が特に有名だ。
イエスは、ヘロデ王の時代にユダヤのベツレヘムでお生まれになった。そのとき、占星術の学者たちが東の方からエルサレムに来て言った、「ユダヤ人の王としてお生まれになった方は、どこにおられますか。わたしたちは東方でその方の星を見たので、拝みに来たのです」。これを聞いて、ヘロデ王は不安を抱いた。エルサレムの人々も皆、同様であった。
王は民の祭司長たちや律法学者たちを皆集めて、メシアはどこに生まれることになっているのかと問いただした。彼らは言った、「ユダヤのベツレヘムです。預言者がこう書いています、『ユダの地、ベツレヘムよ、お前はユダの指導者たちの中で、決していちばん小さいものではない。お前から指導者が現れ、わたしの民イスラエルの牧者となるからである』」。
そこで、ヘロデは占星術の学者たちをひそかに呼び寄せ、星の現れた時期を確かめた。そして、「行って、その子のことを詳しく調べ、見つかったら知らせてくれ。わたしも行って拝もう」と言ってベツレヘムへ送り出した。
彼らが王の言葉を聞いて出かけると、東方で見た星が先立って進み、ついに幼子のいる場所の上に止まった。学者たちはその星を見て喜びにあふれた。家に入ってみると、幼子は母マリアと共におられた。彼らはひれ伏して幼子を拝み、宝の箱を開けて、黄金、乳香、没薬を贈り物として献げた。「ヘロデのところへ帰るな」と夢でお告げがあったので、別の道を通って自分たちの国へ帰って行った。(マタイによる福音書2:1-12)
※ユダヤという表記について注意が必要だ。「ユダヤの王」とあるのは英文では “king of the Jews”、「ユダヤのベツレヘム」は “Bethlehem in Judea” で、違いがある。Judeaというのは下図のユダヤ地方のことで、かつてユダ王国(南王国)があった場所だ。サマリアとあるのがかつてのイスラエル王国(北王国)のあった地だ。
「占星術の学者たち」とあるのは英語で “three wise men form the east” もしくは “Magi from the east” であり、定説ではペルシャ系の司祭マギだといわれている。ある種の命の恩人なので、西洋ではたいそう評判がいい(Biblical Magiともいわれる)。
マギがイエスの誕生を吉兆として喜び祝福しているのに対して、ヘロデ王は将来「ユダヤの王」にあろうという赤子を警戒している。引用の後、ヘロデ王はベツレヘム近辺の2歳未満の男子を皆殺しにしたところを見ると、激しい敵意があったということになる。
さいわい、事前にイエスの父ヨゼフの夢に天使が現れ、妻とイエスを連れてエジプトへ逃げるよう忠告した。ヨゼフはそれに従ってエジプトへ逃れたため、イエスは殺されずに済んだ。
ヤコブ系とエサウ系
現在一般に “ユダヤ” と呼ばれる人々は遺伝子学的にはともかく聖書の系譜上はヤコブの子孫である。エサウはヤコブの双子の兄だが、二度にわたる “行き違い” のせいで長子の権利を失った。
ヘブライ民族の長子相続は必ずしも長男相続という意味ではない。父が最適と見なす子どもを長子に定め、最も多く財産を相続させる他、霊的な意味での後継者にすることを意味する。霊的な相続とは、始祖アブラハムが神と交わしたアブラハム契約に基づき、子孫や土地や財産という面に限らず、全人類を霊的に教え導くことをいう。何とも有難迷惑というか、誇大妄想気味の契約だが、とにかくそうことになっているのである。
ここから出てくる結論は、ユダヤ人とはアブラハム→イサク→ヤコブのラインに連なる人たちだけを指すのだ。つまりディアスポラで行方知れずといわれる12支族の子孫たちがみなユダヤ人の資格をもつ。離散してしまえば長子相続などできないから、潜在的には全員がユダヤ人を名乗れることになるのだ。
イルミナティは反ユダヤ本流ネットワーク
以上をまとめると、イルミナティとは傍流ユダヤのエドム人、コンマゲネ人(マケドニアとペルシャの混血)、シリア人、ローマ人の混成ネットワークだということだ。メンツから想像できると思うが、反ユダヤ主流派である。
巷に浸透しているイルミナティ=ユダヤ人説は彼ら自身が流布したか、その流布を容認もしくは促進してきたガセだということになる。
“ユダヤ” の多様性
これは想像に過ぎないが(まだ勉強途中で結論は出ていないが)、当時のヘブライ人を十把一絡げに “ユダヤ人”、”一神教徒” と規定することには問題がある。ユダヤ教成立後も多神教信仰を守り、伝統的な祭祀を行っていた部族が多くいたと考える方が自然なのだ。旧約聖書そのものに様々な “最高神” が混在しているからだ。
ただし、もっとも俯瞰的な立場で正・反・合の弁証法を意識するなら、彼らが内部で演じ分けている可能性は残る。エドム(エサウ)系がヤコブ系に反目しているとは必ずしもいえない(聖書にはそのような示唆が存分になされているが・・・)。反目や離反を演じながら、気脈を通じ合いながら、ともに “千年王国” 建設を目指している可能性は十分にある。とにかく苦難と迫害をかいくぐってきた民族なので、”リスクヘッジ” は得意技だ。彼らなら共倒れで絶滅してしまうようなヘマは絶対おかさないはず。
神のお告げ
その証拠に『創世記』には兄弟が生まれる前、母リベカに神からお告げがあったのである。
二つの国があなたの胎内にあり、二つの国民があなたから分かれ出る。一つの国民は他の国民より強く、兄が弟に仕える(創世記25:23)
神はあらかじめヤコブに長子相続させることを決めていたらしいのである(ここにいう国は寓喩で、歴史上のイスラエル王国とユダ王国を意味していない)。しかし、兄の国民が滅びるとは一言もいっていない。
次回はミトラス秘儀にまつわり、カバラやグノーシスが登場してくる。
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Posted by クリモネ
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