【米中冷戦】ペンス演説アゲイン:5つの重要ポイント

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2019年10月24日、ペンス米副大統領が「待望の」中国演説を行いました。昨年のスピーチに比べると肩透かしを食らったという印象です。では、今回の演説のポイントはどこにあったのでしょうか?

5つの重要ポイント(Five Takeaways)

takeawayというのは「お持ち帰り」すべきレベルの重要な情報のこと。演説の骨子ということですね。今回は以下の記事から、ペンス2019中国演説の5つのtakeawaysを紹介します。

1. Linking Hong Kong and trade talks(トランプ政権は香港問題と貿易協定をからめ始めた)

デモクラシーを求める香港プロテスターたちの側に立って発言すると、北京との関係悪化が懸念されるというので「熟慮の上での沈黙」(studied silence)に徹してきたトランプ政権ですが、ここ2か月ほどで態度を変えました。以下、英文を引用します。

Washington’s calculus appears to be that linking trade talks with Hong Kong may add another reason for Beijing to cut a deal while also raising the stakes for China to carry out additional acts of repression in Hong Kong.

トランプ政権の目論見では、貿易と香港を結びつけることで北京には取引に応じる口実が一つ増える。同時に、新たな鎮圧行動に打って出るハードルを引き上げることができる。

cut a deal (with someone) は「(誰誰と)取引(契約・協定)を結ぶ」ことを意味します。cut a backroom dealと言えば「裏取引をする」の意味に。

2. China is becoming a great cudgel in the culture wars(中国の文化こん棒国家化)

Recent weeks have offered a series of stark examples of the degree to which Beijing has attempted to bully U.S. companies into adopting its preferred line of thinking. Now Pence is using that conflict as a weapon in the American culture war over free speech and political correctness.

北京は在中アメリカ企業に圧力をかけ、自分たちに好ましい考え方になびかせようとしてきた。ここ数週間その圧力の凄まじさを明白に示す事例が続発している。ペンスはこの北京と企業の対立を、言論の自由とポリコレを護るアメリカの文化戦争の武器に使い始めた。

どういうことかというと、たとえば、プロバスケNBAの幹部が香港プロテスター支持のツイートをしたところ、中国政府が猛反発。以下の記事に見るような事態に陥っています。

 米プロバスケットボールNBAが国外で最大市場である中国で四面楚歌(そか)に陥っている。NBAの人気チーム「ヒューストン・ロケッツ」のゼネラルマネジャー(GM)の香港デモを支持したツイートが同国で猛反発に遭い、現地スポンサーがNBAとの協力関係を打ち切ると相次ぎ表明したためだ。NBAは成長の原動力である中国でのビジネスに長年にわたり注力してきたが、今回主要広告主をほぼ失ったことで損失額が数十億ドルにも上る見通しだ。

これを受けて、ペンスは次のようにNBAを批判しています。

“Some of the NBA’s biggest players and owners, who routinely exercise their freedom to criticize this country, lose their voices when it comes to the freedom and rights of the people of China,” Pence said on Thursday. “In siding with the Chinese Communist Party and silencing free speech, the NBA is acting like a wholly owned subsidiary of the authoritarian regime.”

「NBAの一部の有力選手やオーナーは、日頃アメリカを批判する自由を行使しているくせに、こと中国人民の自由や権利に関しては声を上げません。中国共産党に与して自由な言論を封殺する。NBAはまるで独裁政府の完全子会社のように振る舞っています」

With U.S. companies increasingly staking out liberal positions at odds with the Trump administration while also searching for a slice of the Chinese market, look for criticism on how those companies approach Beijing to be an increasing part of the ways that U.S. conservatives position themselves against firms such as Apple and Facebook.

トランプ政権とそりが合わないアメリカ企業は益々リベラルな立ち位置を鮮明にしているが、その一方で中国市場のシェアは確保したい。当然アメリカ国内の保守層はアップルやフェイスブックへの風当たりを強め、こうした企業の対北京アプローチを批判する。

3. Settling the great “decoupling” debate(中国切り離し政策?)

Officials in Beijing do not view the U.S. trade war as a mere effort to secure marginal reforms on Chinese economic policy but as a way to decouple the country from the United States and to increasingly isolate it.

北京当局は、米中貿易戦争の目的が単なる経済政策の改革ではなく、中国をアメリカから切り離し、孤立させることにあると見ています。

トランプ政権内のタカ派幹部には確かにそのような孤立を望む声もありますが、ペンス副大統領はこれを否定しています。

“People sometimes ask whether the Trump administration seeks to ‘decouple’ from China,” Pence said on Thursday. “The answer is a resounding ‘no.’”

Rather than isolate Beijing, Pence said the United States seeks “engagement with China and China’s engagement with the wider world but engagement in a manner consistent with fairness, mutual respect, and the international rules of commerce.”

「トランプ政権は中国との分離を求めているかと訊かれることがありますが、答えは断固たるノーです」

アメリカが望んでいるのは中国の孤立ではなく「中国との関与であり、中国の世界との関与です。しかしその関与は公正さ、相互尊重、国際商取引ルールに則った関与でなければなりません」。

4. Emphasizing the intellectual property theft debate(知財盗用疑惑)

中国政府はハッキングを通じた知財の盗用をやめると約束しながら現実には改まっていないとペンス副大統領。中国はハッキングを減らし、従来式のスパイと企業買収で技術を盗むやり方を増やしているとも言います。

しかしペンスの言う規模の被害が事実なのか、中国が2015年の合意を本当に破っているのかについては、どちらも明らかになっていないと言います。

5. The political meddling bugaboo(政治介入というお化け)

When Pence delivered his last major address on China, he raised eyebrows by accusing Beijing of “meddling in America’s democracy” and attempting to oust Trump, a claim that appeared to equate Chinese propaganda efforts with Russia’s more direct interference in U.S. politics. Analysts criticized that argument as misconstruing the threat posed by China.

前回の中国演説で、ペンスは眉をひそめて、トランプ大統領を政権から追い出そうとする北京の「アメリカ民主主義への干渉」を非難した。しかし、それは中国のプロパガンダ攻撃を、ロシアによるアメリカ政治への直接介入と同列に論じたもので、中国の脅威の実情を誤解させかねない物言いだとして批評家に非難された。

今年に入ってトランプ政権は、バイデン元副大統領の次男の、中国国内でのビジネス行動について北京政府に捜査協力を求めた。これにより中国の政治介入問題は新たな意味を帯び始めた。

So on Thursday, Pence refrained from taking up the issue directly and instead slipped in a defensive jibe on the issue: “Beijing’s economic and strategic actions, its attempts to shape American public opinion, prove out what I said a year ago, and it’s just as true today: China wants a different American president.”

木曜の演説でペンスはこの問題を直接取り上げず、少し防御的なスタンスをとってこう述べた、「北京の経済行動、戦略行動、アメリカ世論工作などを見れば、私が一年前に指摘したことが事実だとわかったはずです。いまもそれは変わりなく、中国は違うアメリカ大統領を望んでいるのです」。

ちなみに、ハンター・バイデンの中国疑惑は何かと言えば、中国国営ファンドの取締役に就任、その絡みで巨額の選挙資金を獲得したというもの。詳細については、以下のウォールストリートジャーナルの記事をご覧ください。

明らかにトーンダウンした演説内容

以上の、特に強調すべきポイントのない5項目を「お持ち帰り」しなければいけない内容なら、今回のペンス演説は穏健とも日和ったとも評せるのではないでしょうか?

昨年の第一演説のインパクトに比べるべくもありません。来年に大統領選を控え、結果が求められるトランプ政権は、どうしても「フェーズ1」の合意にこぎつけたいのでしょう。

アメリカがまだ本気モードになっていない

もし当初予定されていたチベットやウイグル自治区での宗教弾圧、人権侵害にフォーカスした演説が行われていれば、米中対立は貿易次元から一気にレジームチェンジの次元に高まりかねません。アップルやフェイスブックが国内向けにはリベラルの旗幟を鮮明にしつつ、巨大市場である人権蹂躙=自由抑圧国家のふるまいにはだんまりを決め込むというのはいかにも偽善的です。しかしそれはまだビジネス次元での矛盾に過ぎません。問題はお金の次元、利害の次元に留まっている、ということです。

しかしアメリカが自由、人権、デモクラシーを本気で相手に振りかざすとき、それは有意の宣戦布告、体制転覆への意志表明となるのです。今回オリジナル演説は延期され、別内容に書き換えられました。「冷戦」の長期化が暗示されたと思います。

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