【英語で学ぼう仮想通貨06】お金のしくみの問題と減価費用

2018-05-24お金の話, 仮想通貨, 貨幣論・歴史

 

これまでの一連の記事で仮想通貨についてはだいたい説明できたと思う。今回からは仮想通貨を含め、「お金っていったい何なんだ」というそもそも論に足を踏み入れたい。みなさんが未来のお金について考える手がかりになればと思う。

 

仮想通貨はいまのお金のしくみを変える武器になる

「いまのお金のしくみって何かおかしくない?」と思った経験はないだろうか。2008年頃に起きたリーマンショックでは債務者が家を没収されたのに、巨額の不良債権を抱えこんだ保険会社や銀行は “Too big to fail.” とか言って政府によって(すなわち国民の税金で)救済された。貸し出した側の責任はほとんど問われなかった。釈然としない。あの金融ギャングたちの特権はどこから来ているのか?その後遺症が99%vs1%のデモを生んだが何となく尻すぼみで消えていった。

リーマンショックの最中にビットコインが生まれていた

ところが草の根で革命運動が起きていたのだ!仮想通貨ビットコインの設計書が世に出たのが2008年10月末のハロウィーンだった。くすぶっていた不信感とやるせなさが、政府や銀行や大企業が好きじゃないと公言するエンジニアやPCオタクたちの闘争心に火をつけたのだ。

トコシエはそこに明治維新の志士のような気概を感じるから応援したいのだが、若さゆえのあやうさも感じる。彼らは脱中央集権ばかりを考えていて、お金そのものについてはあまり考えていなかったようだ。また中央権力との折り合いについてもあまり重要視してこなかったように見える。

仮想通貨が一気にメジャー化して社会の既成事実となってしまえば、中央権力も妥協せざるを得ない。だからトコシエの杞憂に終わるかもしれない。でも気になるものは気になるのである。せっかくのチャンスを無にしてほしくない。

なんせ相手は数千年の歴史背景を持つ金融界である。そう易々と権益を譲り渡すはずがない。また中央の政治家や官僚だって難癖つけてくるに決まっている。憲法九条でさえ改正できずに70年も経っているのだ。お金の絡む話が短期間で決着するとは思えないではないか。

非中央集権化(decentralization)とは革命である。それはエリート層の既得権益を奪い、エリートに仕える人間たちの職を奪う。利害は必ず衝突する。

政治や法律の話はこの辺でやめて、お金の話に絞ろう。このお金というのが曲者なのである。誰もが納得する定義をできた学者はいないのだ。それは考えれば考えるほどわけがわからない。「仮想通貨は便利だからいい」で付くような代物ではないのである。

お金は “3+1 機能” で考えよう

  1. お金はそれ自体では何も生みださないが、それを使えば価値を生み出す。何かと何かを交換するのに便利だ。これが交換手段(medium of exchange)と呼ばれる機能だ。
  2. お金はポルシェとじゃがいもを数値の違いで表現する。商品とお金の間に絶対的な関係は何もないが、値段が付くことで比較ができ市場が成立する。つまりお金は尺度である。値段の物差しである。これが計算単位(unit of account)と呼ばれる機能だ。
  3. お金は権利でもある。未来に権利の行使を保留する手段となる。だから金持ちは強いのだ。これが価値の保存(store of value)と呼ばれる機能だ。
  4. 以上で前回話したお金がお金であるための三機能を満たしたことになるのだが、もうひとつ忘れがちな点がある。それはお金がお金を生むという機能だ。これを利子(interest)とか金利(yield)とか呼ぶ。
    利子はお金をたくさん持っている者が最初から有利なゲームだ。お金持ちは誰かに貸すか、どこかへ預ければ済む。うちら庶民は働いてくのが精いっぱいだし、このマイナス金利のご時世だ。利子所得など望むべくもない。こうしてお金はお金持ちのもとへ滞留してしまうのである。「金は天下の回りもの」という格言が空々しく響かないか。
    利子という機能は自然法則から導き出された機能ではなく、人間が勝手に作り上げた決め事である。利子は数千年前に遡るものすごく古い起源を持っているらしい。太古の時代、負債を負う者は奴隷になった。奴隷は返済のために一生働くしかなかった。さもなければ殺されるから。冷酷な奴はいるもので、奴隷労働のあがりに飽き足らず、お金を貸してやっている時間を賃貸料として取り立て始めた。このあこぎな行いが利子の起源ではないかと(確定はしていないが)言われているのである。お金は資産ではなく負債として生まれたかもしれないのだ。
お金の悪魔マモンと奴隷

いまのお金のしくみに問題があるとしたら、基本的には、このお金の “3+1の機能” が所得の格差を拡大する方向で利用されているからだろう。個人の能力や働きが格差を生んでいるのとは違う。お金の配分がいびつになっているのは、お金そのものに欠陥があるわけではない。お金の使い方に欠陥があるのである。同じ一つのお金に “3+1の機能” をぜんぶ詰めこんだ弊害なのである。

仮想通貨はこの矛盾に手を突っ込んだのだと思う。 “3+1の機能” を電子情報のレベルで分割できるようにした点がイノベーションなのではないか。前回話したコインとトークンの話が大事になるのは、この部分だ。機能を分割すれば、お金を流通させる目的が明確になるからである。

お金の退蔵を罰するという発想

実は仮想通貨以前にも、このお金の使い方のいびつさに腹を立て果敢に立ち向かったシルビオ・ゲゼル(1862~1930)という思想家がいたのだ。そして政府に規制されるまで一定の成果を上げた。第一次と第二次世界大戦のはざまの時期、ドイツでの話だ。

ケインズ:ゲゼルについて(出典:AzQuotes)

減価費用(demurrage)と自由貨幣

demurrageの語源はフランス語 “demur”(delay、tarryの意)にある。

減価費用とはお金にマイナスの利子をつけるというアイディアだ。シルビオ・ゲゼルが提唱した通貨制度「自由貨幣(free money、減価貨幣)」におけるキー概念なのである。

ゲゼルは通貨の流通量のアップ&ダウンがインフレやデフレを引き起こす現象を問題視して、通貨がインフレやデフレを起こさないしくみを考案した。減価貨幣においては、紙幣が常に適切な速度で流通するように、紙幣を退蔵する者に対して一定率の “ペナルティ” を与える。

減価紙幣は一定期間ごとに有効期限を迎え減価していく。減価した紙幣は一定額のスタンプを購入して紙幣に貼らないと再度使えるようにならない。ペナルティを恐れる使用者はなるべく速やかに紙幣を使おうとするので、紙幣の流通が活性化する。この減価貨幣におけるペナルティを減価費用と呼ぶ。

現在ではスタンプ購入の煩雑さを解消すべく、電子マネーの形態で実施し、一定期間が経過すると残高が減るしくみとして実現している例がある(ドイツのキームガウアーなど)。

さらに補足として、Wikipediaの自由貨幣の解説から一部引用する。

(減価貨幣は)緩やかなインフレを人工的に引き起こしているように見えるが実際にはインフレとは異なる。インフレは貨幣価値に対する財やサービスの全面的高騰を意味するが、貨幣が減価するというのは貨幣を保有しているものに対してのみ影響するからである。つまり、減価する貨幣において100円が90円に減価したとしても、世の中の財やサービスの価格に変動はない。しかしインフレにおいては財やサービスそのものの価格が変動する。インフレは今所有していない貨幣(例:将来得る予定の賃金、等)に対してもその価値を減ずる効果を持つが、減価する貨幣ではそういうことは起こらない。

Freicoin

ドイツの伝統なのだろうか、仮想通貨界にもこの減価費用を科す仮想通貨を思いついて実装した人がいるのだ。通貨の名前をFreicoinという。”frei ” とは自由を意味するドイツ語だ。ゲゼルの自由貨幣の仮想通貨バージョンである。

今回はここまでにして次回はFreicoinを手がかりにさらにお金のしくみをどうすればいいのか考えてみたい。